権太の生涯
第一話「死んでいた頃」
  山梨県三富村の乾徳山(標高2031メートル)に登っていた東京都大田区蒲田在住、無職少年(15)の行方が分からなくなったと、父の会社員(48)が十七日、日下部署に届け出た。十七、十八の両日、県警、地元山岳会などが捜索したが、未だ見つかっていない。
 少年は二日朝、三富村徳和から単独で登山を始め、最後に目撃されているのが十七日昼過ぎ(標高1900メートル付近)とのこと。県警では十九日朝から捜索を再開する予定。

1991年 5月19日 新聞朝刊より抜粋


 権太は西暦1975年、昭和50年に東京都は大田区、久が原に生まれた。父は複写機の営業マン、母は専業主婦であり、経済的にも社会的にもとりたて記すこともない、ごくありふれた中産階級の出身だった。

 権太。こう書いて、「けんた」と読む。ここだけは、少々ではあるがありふれてはいない。普通なら、「ごんた」であろうか。
 権力・権限を持った人間になって欲しい。父方の祖母からの、そんな願いが込められた名前である。

 権太は両親にとって初めての子である。そして権太はその十六年間に及ぶ生涯において、弟妹を知ることはなかった。

 四歳になると、権太は幼稚園に入れられた。同年代の児童達と比べると、彼は体格に恵まれていた。それでいて口数が少なく自己主張も控えめであり、遊具や道具を使う順番も他の子に譲ることが多かったため、周囲からなんとなく慕われる存在になっていった。
 手が届かない。何となく先に進むのが恐い。重いから持ちたくない。児童達はそんな時、恵まれた体格であり穏やかな性格の権太を頼ることが度々で、彼も皆が嬉しそうに喜ぶ顔を見るのが楽しかった。
 
 五歳の梅雨、権太の在籍する「ばらぐみ」学級に、一人の児童が転入してきた。小柄な男の子で、名前を「ゆうだい」といった。
 ゆうだいは転入してすぐ、権太に声をかけてきた。だが、なにやら言葉が聞き取り辛く、何を言っているのかよくわからない。権太が返事ができないままでいると、ゆうだいはもう一度声をかけてきた。しかし、今度も内容がわからない。すると、またもやゆうだいの口が開いたので、権太は聞くことに集中した。どうやら、「ぼくはゆうだい。これからよろしく」と言っているらしい。これは挨拶だろう。そう思った権太は「うん。よろしく」と返事をした。ゆうだいは「きっ」といううめきとも舌打ちとも判別がつかない声を上げると、担任の中年女性教師が促す席に着いた。

 それ以来、ゆうだいは何度も権太に話しかけてきた。別の子と話していると強引に割り込んでくることも度々だった。しかし、聞き取り辛いのは毎度のことであり、「ぼくは」と言っている部分だけがかろうじて判別できるかといった有様である。
 「ゆうだいくんは、ボクとともだちになりたいんだ」権太は何度も話しかけられる理由がそうであると、五歳児なりに気付いた。だとしたら、何を言いたいのか知っておかなければならない。権太はゆうだいの言葉が聞き取りづらいと感じる度に、「え?」「なになに?」などと聞き返してみた。その結果、概ねにおいて一度の会話で三度ほどの聞き返しを繰り返すことになり、三度目でもわからない場合、ゆうだいは会話を諦めてしまうので四度目はなかった。

 転入してから三日間がピークだった。それを境に権太がゆうだいから声をかけられる機会は減り、一週間ほどすると全くなくなってしまった。

 ゆうだいは、話し相手を権太以外の子に求めた。しかしその子達もゆうだいの言っている内容がわからず、聞き返されるとゆうだいは「きっ」や「つっ」や「ぶっ」といった声を上げ、会話を途中でやめてしまっていた。権太が知る限り、聞き返された際にゆうだいが言い直したり繰り返したりすることはなかった。権太の時とは異なり、ただの一度の聞き返しだけで、彼は会話を打ち切ってしまっていた。

 権太はゆうだいの相手をすることがなくなったので、ばらぐみの友達と話したり遊んだりする機会が増えた。つまり、ゆうだいが転入してくる以前の日常の再開である。幼稚園では大きな身体を利用して他の子では届かないものを取ってあげたり、ごっこ遊びでは悪者や大人の役を率先して担当したり、その都度友達は笑顔で感謝し、楽しんでくれる。
 友達が楽しそうにしているのを見るのが、権太にとって一番の喜びだった。この当時、権太はばらぐみの中心にいた。だが、彼にはその自覚はなく、ただ無邪気なまま毎日を面白おかしく過ごしていた。

 梅雨が明ける頃になると、ゆうだいは誰とも会話をしなくなっていた。担任の先生が気を遣って声をかける機会を増やしてみたが、ゆうだいの返事は短く、場合によっては「きっ」「つっ」などといった声のみに止まることさえあった。
 ある日、権太はばらぐみの友達から、担任がゆうだいにもっとゆっくり喋るように指摘したという話を聞いた。なんでもゆうだいの言葉が相手に伝わらないのは、早く喋り過ぎているためだったかららしい。そういうものなのか。権太にはわからないままだったが、ゆっくり喋ればゆうだいは皆と話す様になると友達も言うので、早くそうなって欲しいと思った。

 その翌日、ゆうだいはばらぐみのある児童に、ゆっくりとこう言った。「けんたくん、きらい」と。
 権太にもはっきりと聞き取れた。聞き取れたが、彼は聞き取り辛い頃と同じ様に、「え?」といった声を漏らしてしまった。
 「けんたくん、きらい」その言葉の理由、意図を知りたいため、権太はゆうだいに「なんで?」と尋ねた。しかしゆうだいは「きらい」と答えるだけだった。
 不安とも怖さともつかない濁った何かが、権太の心を浸そうとしていた。五歳児の彼に分析や判断は困難だったが、危機を察知することは充分にできた。

「けんたくんはきめれない」
「けんたくんがウソついた」
「けんたくんはおそい」
「けんたくんはくさい」
「けんたくんがとった」

 夏が進むに連れ、ゆうだいは周囲の児童達にそう吹聴するようになっていった。
 「けんたくん、きらい」なら、ゆうだい自身の意思の表明に過ぎない。しかし、これらの吹聴は欠点の指摘や罪の告発である。欠点にしても犯罪にしても心当たりがない権太は、ゆうだいに「なんで?」と尋ねてみたものの、やはり相変わらず「きらい」としか返ってこなかった。

「けんたくんとじゃいやだ」
「けんたくんのがいい」
「けんたくんとあそばないで」
「ぼくとあそぼう」

 吹聴の次は拒絶や要求、そして友達を横取らんとする試みまでもが行われた。
 時折早口の癖が戻ってしまい聞き取りが難しくなるものの、ゆうだいの権太に対する敵対姿勢は明白であり、それは日を追う毎に加速していった。
 温厚だった権太も優柔不断・虚言・愚図・悪臭・略奪といった身に覚えのない批判や拒絶はともかく、不当な要求に対しては反抗の意思を示そうとした。しかし反論という行為をこれまでに経験したことがなかった彼は、どのような言葉を用いればいいのかわからず、ただ短く、「ちがう」「うそだ」「やだ」「どうして?」と繰り返すしかなく、正当性の主張や敵対関係の緩和は叶わなかった。それに対してゆうだいは、数十倍の言葉を用いて、権太がいかに愚劣であり、このばらぐみの皆で嫌悪するべき対象であることを周囲の児童達に説いた。「けんたくんはバカだ。おそいしくさいし。ウソつきでドロボウだ。だからみんなでやっつけよう。けんたくんをこらしめるんだ」分量も豊で淀みなく勢いのあるゆうだいの言葉を否定する子は現れず、児童達はただ黙って聞いているしかなかった。
 “ゆっくりしゃべる”この心がけがなければ、皆も黙って聞いているのではなく、単に雑音として無視していたことだろう。そして巧妙なことに、ゆうだいはこの素晴らしきアドバイスをしてくれた担任教師の不在を見計らい、権太への対立行為を行っていた。こうなると、ゆうだいの傍若無人を止める手立てはない。権太は教師に抗議しようかと思ったのだが、どのような言葉で伝えていいのかわからず、親にさえ窮状を訴えることはままならなかった。
 しかしおそらく、ゆうだいの主張や要求はばらぐみの皆に受け入れられないだろう。権太は漠然とそう思っていたので、ひとまずはこの状況を放っておくことにした。
 なぜなら、吹聴は事実に基づかれておらず現実とは乖離した内容であり、要求や請求は正当性を持たず、いくらまくし立ててもただのわがままでしかなかったからだ。
 「わがままは親しかきいてくれない。しかも稀に」権太は五年に亘る人生で、それが当たり前の常識であると考えていた。

 それにしてもゆうだいは、なぜ自分に敵対してくるのだろう。出会ってから今まで、彼の機嫌を損ねる様なこともした覚えがないのに。権太はそれが不思議であり、直接ゆうだいに尋ねてみたこともあったが、彼はこれまで以上に早い口調で何やらよくわからない言葉を返してくるだけだった。

 ある日のこと、眼鏡をかけた同級のある男の子が、権太の疑問に対してこんな説明をしてくれた。
「ゆうだいくんはケンちゃんみたくなりたいんだ。ケンちゃんがうらやましいんだ」
 ケンちゃんこと権太は、最初は意味がわからず眼鏡の子に説明を求めた。
「ゆうだいくんはケンちゃんみたいになりたいから、ケンちゃんがジャマなんだよ。だから、ケンちゃんがダメでわるくてケンちゃんみたくなければ、じぶんがケンちゃんになれるっておもってるんだよ」
 対象の虚像を喧伝し、その実像を横取りする。ゆうだいの行為はそういうことである。「ボクのウソをいいふらして、にんきものになりたい」五歳なりの解釈で権太は説明に納得した。しかし同時に、それはどうしようもないことであり、そもそも自分が人気者であるという自覚も全くなかったため、権太はひどく困惑した。
「どうせ、なにもならないよ」
 眼鏡の子はそう付け足し、権太もそうなんだろう納得し、困惑をひとまず隅に追いやった。

 だが、夏休みを経てから、学級の雰囲気は徐々に変化を見せ始めた。ゆうだいの吹聴や要求に賛同や支持の態度を見せる児童が現れたのだ。

「けんたくんはへただね」   「うん。けんたくんはできないね」
「けんたくんがうそついた」  「けんたくんひどいね」
「けんたくんのがいい」    「あげなよ、けんたくん」

 最初は、たった三人だった。

「けんたくんがなかせたよ」  「ぼくたちもみたよ」
「けんたくん、それちょうだい」「ぼくたちにもちょうだい」
「けんたくんじゃいやだ」   「みんなもそうだよ」

 秋になる頃には、ばらぐみの半数近い児童達がゆうだいを支持する様になっていた。

「けんたとあそばないで」   「そうだね。ケンちゃんきらいだし」
「ぼくとあそぼう」    「うん。いいよ」

   「さよなら、ケンちゃん」

 アドバイスをしてくれたあの眼鏡の子もゆうだいの横に並び、冷たく寂しい言葉で「なにもならなくない」現実を突きつけてきた。
 嘘や偏見に同意され、理不尽な要求には同調される。ゆうだいのわがままがなぜこんな大勢に通ってしまうのか、権太には理由も原因もまったくわからなかった。

 冬になる頃、権太はようやく真相を知った。彼にそれを教えたのは、ばらぐみの中でも一番頭がいい、太った男の子だった。
 ゆうだいは夏休みの間、ばらぐみの児童達を自宅に招待していた。そして彼らや彼女らに菓子をご馳走し、玩具を貸し与えた。菓子は高価な洋菓子であり、玩具は発売されたばかりの時計機能が付いた携帯型液晶ゲーム機なども含まれていたという。そして、その中でも特に優遇されていたのが最初に賛同したあの三人だったらしい。ゆうだいは三人にだけより高価な洋菓子を与え、より最新のゲーム機を貸し、彼らを「なかま」と呼んだ。ゆうだいの家はとても大きく、子供部屋も広くて大人の介入がないため居心地もよく、夏休みが終わってからも三人の仲間は頻繁に遊びに行っていた。
「ゆうだいくんは、あのこたちをばいしゅうしたんだよ」
 太った子はそう言った。“ばいしゅう”という言葉の意味がわからないので権太が聞いてみると、「おかしやオモチャをあげてわがまますること」と説明された。
 「けんたくんをこらしめよう。だってけんたくんはわるいこだ」ゆうだいのこの提案を、“ばいしゅう”された三人の仲間は自分達の意見としてばらぐみの児童達に言い広めた。権太が悪い子である証拠として、彼が落書きして破ったとされる自分達の絵本も提示された。もちろん、権太には心当たりのない絵本である。やがて、何人かの児童が三人の意見に賛同した。態度をはっきりとさせない子に対しては、ゆうだいが菓子や玩具でおもてなしを行い、秋頃までに半数近い支持を得るに至ったとのことである。
 このまま事態を放置していたら、いずれはばらぐみの大半が自分を排斥する側に回ってしまう。そんな不安を五歳の権太は、「こわい」「さびしい」という単純な気持ちで自覚した。しかしこちらの正当性をいくら訴えたところで、足りない言葉では劣勢は挽回できない。愚劣で性悪との誤解を解くにはどうすればいいのか。
 ゆうだいが“ばいしゅう”という方法で支持を得たのなら、自分も同じ事をしてみたらどうだろう。その思いつきに、真相を教えてくれた太った子は反対した。なぜなら権太に対して誤解をしているのはばらぐみの半数近くだが、逆に残り半数はゆうだいの主張に賛同していない。その中には、権太から親切にされたり助けてもらったりしたことのある子もいる。この子達はゆうだいの買収にも決して動じないだろう。それが太った子の反対理由だった。
「がまんしてたらへいきだよ」
 そんなアドバイスに対して、だが権太はそれでも不安だった。“ばいしゅう”が恐ろしくて仕方がなかった。なぜなら自分も“ばいしゅう”に勝てる自信がなかったからだ。噂で聞こえてくるゆうだい君の洋菓子はとても美味しく、ゲーム機は未知の興奮を与えてくれるらしい。ゆうだい君に嫌われている自分がそうなのだから、いずれはばらぐみの全員が自分を排斥する側になるだろう。目の前で反対するこの太った子にしてもそうだ。眼鏡の子だって、裏切ったのだから。なら、少しでも対抗しなければ。
「ボクもばいしゅうしないとこらしめられる」
 自分で自分を追い詰めてしまった健太は、安易で愚かな解決方法を試みた。だが、賄賂の原資となる菓子は質や価格もゆうだいのものと比較できない程見劣りし、貸し与えるための玩具もプラスチックやビニール製の薄汚れた粗悪なお古だった。そのため、児童達は権太のふるまいにただ困惑するばかりであり、買収によって支持を得ることはできなかった。また、買収行為そのものが権太らしくなく、おそらくはゆうだいに対しての対抗措置であるだろうと漠然としつつも推察する児童もいた。このままだと、権太がどのような変質を遂げていくのか不安でもある。そんな理由から彼との距離を意識的に広げ、できるだけ接触を避ける児童もいた。
 もてなしが失敗であることは権太にもよくわかっていた。それならばと母親に対してより高級な買収原資の仕入れを要求してみたのだが、そのようなわがままが許されるはずもなかった。

 年が暮れるにつれ、権太の不安は現実となっていった。一人、また一人、ばらぐみの中でゆうだいの意見に賛同する児童は増加し、権太を責めたてる声が大きくなろうとしていた。健太にとって、我慢できる水位はとうに超えていた。しかし、解決策はない。それでもなお幾人かの児童は権太の味方だったのだが、彼はその子達さえも信用することができず、ばら組でも孤立を深めるようになり、鬱屈を抱え荒んだ感情が芽生えていった。
 荒ぶった感情に任せ、部屋で絵本を投げることがあった。母の料理を食べないこともあった。通園を拒むこともあり、それでも無理矢理連れだそうとする母親に対して、泣きじゃくり、座り込み、拒絶の叫びを繰り返すこともあった。いずれも理由は一つであり明確だったのだが、それを説明するのに権太はまだ幼く、母は急に手が掛かるようになってしまった一人息子に困惑するだけだった。

 そして、ある事件が起きた。
 きっかけは他愛のないことだった。年が明けたある日、二日ぶりに通園した権太にゆうだいがこう言った。

「やすむんだったら、もうこなくなっちゃえばいいのに」

 憂鬱さを乗り越え、やっと通園をしたというのに。なんて無神経で残酷な言葉なのだろうか。ゆうだいの一言に、権太はそもそも乏しかった知性をすっかり失い、結果の想定などできぬまま、沸き起こった憤りの解決を暴力に求めてしまった。荒ぶる魂を解き放ち、恵まれた体格に任せた結果、ゆうだいは権太に突き飛ばされ壁に激突し、へたり込む際に肘を擦りむき、ほどなくして号泣した。周囲の児童達はその光景に言葉を失い、権太の怒りが暴発したことにただ戦慄した。

 事件が発生してからしばらくして、権太の両親が幼稚園に呼び出されてきた。一人息子の目の前で、両親は何人かの大人達から我が子の行いを激しく糾弾された。
 権太にとって、それはいささか違和感を覚える光景だった。大人達の中には見知った顔がいくつかある。そう、あれはばらぐみの児童の両親達だ。傷を負わせて泣かせたのはゆうだいなのに、なぜ無関係である彼らが父と母を責め立てているのだろうか。確かに、突き飛ばして泣かせてしまったのは悪いことだ。ゆうだいの言葉に非があったとしても叱られるのは仕方がない。しかし、なぜそれをゆうだいの親でもない人達が行うのか。あの中にゆうだいの親はいるのだろうか。権太は知らない顔に注目してみたが、よくわからなかった。ただ、誰もが被害者のことをゆうだいの苗字で呼んでいるから、たぶん大人達の中にはいないのだろうと思われる。当のゆうだいは既に泣き止み、へたり込んだ姿勢のままこちらをじっと恐い目で睨み付けている。
 両親は無関係な親達や教諭の糾弾に対して、ただひたすら謝罪の言葉を繰り返している。と言うことは、この一見して違和感のある状況は、とても自然で当たり前であるということなのだろうか。
 最後に、ばらぐみの担当教諭が権太の両親に厳重な注意を言い渡した。両親は頭を下げたまま、何度も「はい」を繰り返している。教諭の言っていることは難しくてよくわからないが、「きょうぼう」「まえからずっと」という言葉だけが妙に権太の印象に残ってしまった。

 帰宅した後、両親はひどくぐったりとしていた。父は食卓に突っ伏し、母は繰り返して水を飲み、台所にへたり込んでしまった。
 その晩、父は権太に「ぶったり押したりしちゃダメだ。お前は身体が大きい。おとなしくしてろ」と忠告され、彼も「うん」と返事をするしかなかった。

 事件の翌日、権太が幼稚園に行くと、ゆうだいは包帯で右腕を吊っていた。それを見た権太は肘を擦りむいただけだと思っていたのでひどく驚き、自身の暴発を初めて反省した。ばらぐみの児童達は権太にゆうだいに対しての謝罪を促した。ゆうだいは眼前にやってきた権太を、椅子に座ったまま無言で見上げていた。「ごめんね」そう呟いた権太に対して、別の児童が土下座を命じた。土下座というものが何なのかわからなかったので、ただ首を傾げていると、ゆうだいの仲間の三人組によって両腕と頭を押さえつけられ、強引に四つん這いにさせられた。
 「ごめんなさい。もうにどとしません。ゆるしてください」
 そう言えと強要された謝罪の言葉を、権太は床に額を付けたまま口にした。しかし、ゆうだいから了解や赦しの言葉は降ってはこなかった。仕方なく、二度三度と謝罪の言葉を繰り返したが、やはり何の反応もない。権太が額を少しだけ上げ、チラリと視線をゆうだいに向けてみると、彼は薄笑いを浮かべ、ぷるぷると小刻みに震え、顔を真っ赤にして小さく一度だけ鼻を鳴らせた。
 教諭がやってきたため、土下座をしての謝罪は受け入れられることがなく中断した。図画工作の時間、ゆうだいは包帯を外してクレヨンで絵を描いていた。権太はそれを教諭に指摘しようと思ったが、ゆうだいが睨み付けてきたのでそれを諦めてしまった。赦されていないのだから、今の自分はゆうだいに対して何一つ行動を起こしてはいけないのかもしれない。彼から罪を免じる言葉が出るまで、ただ待たなければならないのだろうか。権太はなんとなく今の自分とゆうだいを取り巻く状況をそう理解した。

 権太がゆうだいに怪我を負わせたあの“突き飛ばし事件”以来、ゆうだいやばらぐみの児童達は権太を責め立て、理不尽な要求をしてくることはなくなった。それと引き替えに、権太はばらぐみの誰からも相手にされなくなった。少しだけ残っていた味方だった児童もあの突き飛ばし事件を境によそよそしい態度になり、権太を避けるようになっていた。
 話しかけられることもなく、話しかけても返事がなく、順番を譲ったところでさも当然といった反応が返ってくるだけであり、権太は存在そのものがないものという前提のもと、徹底的に無視をされた。
 これならまだ、糾弾される方が反論することができるだけマシである。この無視はゆうだいの命令しているのだろうか。

 ゆうだいがやってくるまでは、皆から笑顔が向けられ、明るい声もかけられていたのに。今では冷たい笑いと、ひそひそ話が漂うばかりだ。稀に接触があるとしたら、不意にこづかれたり転ばされたりするぐらいである。泣いてもやってくるのは担任教諭だけで、転ばされたことを訴えるとその児童は注意をされるが、なぜそんなことをするのか教諭から問い質されても答えようとはしない。
 振るってしまった暴力の代償は、あまりにも大きすぎた。しかしなぜ、ここまで巨大な形で跳ね返ってくるのだろうか。まるでばらぐみ全体がゆうだいという個人の意志で支配されている様だ。これが“ばいしゅう”の力というものなのだろうか。それとも自分の暴力が、こうまで強烈な嫌悪を引き出してしまったのだろうか。

 権太の疑問は、意外な形で回答として示された。

 ある日、権太は家でテレビのニュースを見ていた。見ると言っても次の番組である特撮ヒーロードラマの再放送を待っていたためであり、内容も理解できずただぼんやりと眺めているだけだった。すると、椅子に座ったスーツ姿をした笑顔の老人が映し出された。全く興味が湧かない。かっこいいヒーローが活躍するあの番組が早く始まって欲しい。散漫な意識で顎を上げてブラウン管を見つめていた権太に、通りかかった母が、「この人って、お前が怪我をさせた、ゆうだい君のおじいちゃんだよ」と告げた。ゆうだいの祖父は、現職の外務大臣だった。母にそう教えられたものの、五歳の権太に外務大臣という肩書きが意味するものがなんであるのかよく理解できなかった。ただ、テレビのニュースに笑顔で出てくるような人だということは、自分の父親や祖父よりもずっと凄いのだろう。よく見ると、とても偉い人のようにも感じられる。
 権太は直感した。ゆうだいは偉い。いや、ゆうだいの家族は偉い。偉いということはお金持ちだ。だから高価な菓子や最新の玩具が無尽蔵に賄賂の原資として供給されるのだ。ばらぐみの児童達やその家族達は、きっとゆうだいの家族の家来だ。みんな丸ごと“ばいしゅう”されたに違いない。だから暴力への糾弾が、無関係な別の児童の保護者達によって行われたのだ。一斉に始まった無視や無反応もゆうだいが命じているのに違いない。もしかすると教諭だって買収されているかもしれない。
 権太は母に「なんでうちはゆうだいのけらいじゃないの?」と尋ねた。母は困惑して、返事をしなかった。
 テレビの中の老人は椅子から立ち上がると、体格のいい壮年の白人男性と握手を交わした。「ゆうだいのおじいちゃんが、プロレスみたいなひととあくしゅしてる」その光景をブラウン管越しに見つめていた権太は白人男性の正体も握手の事情も理解できぬまま、ゆうだいの祖父であるあの老人がとてつもなく偉い人物であり、自分とは全くの別世界に住んでいるのだろうと納得するしかなかった。

 自分は最初から誤っていた。ゆうだいが自分のポジションを狙っているのなら、早々に譲り渡して彼の家来か子分にでも収まっていればよかったのだ。「ちがう」「うそだ」「やだ」「どうして?」などと反発せず、「そうだね」「そうだよ」「いいよ」「どうする?」と、理不尽を我慢して従っておけば、理不尽に責められることもなかったのだ。両親だってあんな大勢に糾弾されずに済んだのだ。組の中で誰からも相手にされず、途方もない孤独を味わうこともなかったのだ。

 この世の中には、ランクという超えられない壁が存在する。高いランクに位置する者は、下位者に対していかなるわがままも成立し、正当なる要求として社会から取り扱われる。そんな認識によって植え付けられた卑屈の種は、程なくして芽吹き、権太の人生に様々な軌道修正を促した。恵まれた体格もそこから暴発しかねないトラブルを恐れたため、すっかりもてあました。不毛な悪意に晒されたくないため、幼稚園ではできるだけ目立たぬ様に過ごした。集団からの孤立は担任教諭も黙認していた。お遊戯の相手が誰もおらず、ぽつんと隅にいても声ひとつかけられず、ああ、あの先生も少年の祖父よりずっと低いランクの人間であり、だから放置されているのだと納得するしかなかった。

 こうなると、幼稚園に行くこと自体が苦痛でしかない。しかし、父親は朝早くから夜遅くまで会社に勤めていて、母も朝から午後までスーパーに働きに出るため、幼い権太の日中の居場所は幼稚園しかなかった。なら、別の幼稚園はどうだろう。親戚には、確か「ほいくえん」という所に通っている自分と同じ歳の子もいた。しかし母は、「権太はあの幼稚園に通って、怪我させたゆうだい君にずっと謝らないとダメだから」と説明し、息子の要望を早々と拒絶した。たぶん、自分が高いランクの人間だったら、嫌な幼稚園にも通わなくていいんだろう。ランクが低いということは、自由や選択肢に制限がかけられるのだ。漠然とそんな結論に至ると、卑屈の芽はますます大きく育っていった。

 トラブルに巻き込まれる。こんな卑屈な自分を見られたくない。そんな理由から、家にこもる機会が次第に増えていった。

 卑屈な日々を過ごす六歳の権太に、朗報がもたらされた。あの運輸大臣の孫が、あの早口のゆうだいが、来年からは私立小学校に進学するというのだ。やがて訪れる別れに、すっかり賄賂の虜となっていた児童達は、残念であるとの反応を示した。権太も言葉少なく、「さびしいね」と発言した。しかしその内面では祝福の鐘が高らかに鳴り響いていた。
 小学生になれば、この状況は打開する。奴さえいなくなれば、あとは自分とそれほどランクの変わらない子ばかりだ。不当なわがままなどただちに浄化される、以前のように正常でまともな世界が取り戻せる。そんな希望だけで、彼は卒園までの期間を休むことなく通園し続けることができた。

 ただひたすら小学生になることを望み続けていた冬から春までのことを、権太は後にほとんど思い出すことができなかった。彼にとって、この期間はそれほど印象が希薄であり、卒園のイベントも数年ほど経つと全く忘れてしまった。無論、ゆうだいとの仲直りや、権太の復権といった劇的な事件なども皆無だった。ゆうだいという生涯において初めて現れた敵と、権太は二度と会うことはなかった。

 権太は地元の小学校に入学した。幸いにして、そこには幼稚園を共に通っていた児童は一人もいなかった。彼はやがて、新たな仲間や友達を得て笑顔を取り戻そうしていた。

 小学三年生になると、権太は自分の好き嫌い、得手不得手をなんとなくだが把握できる様になっていた。机に向かう勉強は嫌いなうえ苦手。だけど運動は好きで得意。そんな権太には人を笑わせる才能もあり、大きな瞳にちぢれた頭髪といった外見も手伝ってか、彼は次第にクラスの中でトリックスターとしての人気を集めていた。クラスメイトを笑わせ、笑われ、ゆうだいの登場以来失っていた集団の中での居場所というものを、権太は再び見つけたような気がした。
 しかし、生涯において最も幸福だったこの日々も、あまり長続きはしなかった。

 ある日のこと、人生初の転校という事態が急に発生した。理由は破綻した家計による、経済的な事情にあった。
 権太の父は、友人である会社社長が契約していた事業資金融資の連帯保証人となっていた。しかしその友人は事業に失敗し、様々な債務の返済責任を自己破産という結果で失った。権太の父が連帯保証人となっていた事業資金の融資金額は延滞利息を含めると五千万円にも膨れあがっていた。無論、返済の責務は連帯保証人が負うことになる。
 権太の父は、五千万円という途方もない責任から悩みに悩み抜いた末、文字通り逃げ出した。彼は息子と妻の前から忽然と姿を消してしまった。金融機関は、残された権太の母に返済を迫った。母は実家と相談し、所有していた家電パーツの下請け工場を売却することにより、その大半を返済した。残る債務は四百万円程で、これは母本人が返済を引き受ける結果となった。一家の大黒柱の失踪と債務返済といった経済的事情は、収入の激減と支出の増大という致命的な経済的事情の変化を権太の家にもたらした。その結果、より安く狭い住居への転居が余儀なくされ、権太当人にとっては転校という形で影響を与えることになった。

 まだ小学三年生である権太にとって、理解しがたい複雑な転校理由だった。しかし、逃げた父、実家と電話越しに口論する母、クラスでのお別れ会、新しい学校。その全てはぼんやりとだが権太の記憶の中でつながれていた。

 新たな教室の黒板の前で、権太は自己紹介をした。衆目が注目する中、権太はひどく緊張し、言いようのない不安を覚えてしまった。
 しかし、それは杞憂だった。休み時間になると笑顔を浮かべたクラスメイト達が代わる代わる権太の席を訪れ、様々な質問や自己紹介を繰り返した。クラスメイトにしてみれば、あくまでも興味本位でしかないのだが、どういった学校生活になるのだろうか幾分怯えていた権太にとって、積極的で好意的なムードでの接触は単純に嬉しかった。
 しかし、接触内容は権太をひどく悩ませた。クラスメイトの質問の大半が、過去と現在の状況についてだったからだ。好きな歌手の名前や好物ならすらすらと答えられたが、父の失踪、母の疲弊、狭く貧相な住み処といった暗く惨めな事情や環境は口にするのも憂鬱であり、答える言葉は少ない上不明瞭で、質問者の興味を満足させることができなかった。
 ただでさえ過去が共有できない転入生なのに、その現在すら語りたがらない新参者など不気味な異分子でしかない。クラスメイト達は権太への接触を次第に減らす様になっていった。
 それでも敵意や悪意が向けられていないだけ、権太にとって“ゆうだい”がいた頃よりはいくらかマシな状況ではあった。しかし、転入生という立場での学校生活は、想定していなかった不都合を次々と現出させた。
 まず、クラスの中で交わされる会話が微妙なレベルで理解しがたかった。会話の流れや単語の略称が所々異なっていたのが最大の理由なのだが、権太にはそのこと自体が気づけずにいたので、他愛のない会話ですら入っていくのに相応以上の覚悟が必要だった。
 そして、こちらも微妙な違いだったのだが、学校内でのルールや習慣も以前の学校と細々と異なっていた。都度クラスメイトや担任に質問してもよかったのだが、あまりに多いため段々と面倒になってしまい、権太は理科の実験用具の収納場所がわからず途方に暮れたり、以前の学校なら厳密には守らなくても構わなかった通学路の逸脱を担任から厳しく叱られたりと、不愉快な気持ちになることが度々だった。
 転入生というものは孤独なんだ。だから、不愉快な目にも遭う。「ボクはてんこうせいだからうまくできないんだ」権太は状況をそう定義した。しかし、それはおそらく誤りである。自分の過去や現在を包み隠さず話せば、同情して友達の一人でも出来ていた可能性もあった。友達とは、略語の説明やルールの違いを指摘してくれる存在だ。陰鬱な過去や現在は権太のせいではなかったが、それを隠匿するといった彼自身の意志決定によって可能性は閉ざされ、不都合な学校生活は積み重ねられていった。
 このような状況であっても勉強ができれば、孤高ではあっても自尊心は保たれる。クラスメイトに威張れたり、教師から誉められたりされれば、不愉快はいくらでも相殺される。しかし、そもそも権太は勉強が苦手で嫌っており、授業の中でも最も苦手な算数が前の学校より微妙に進んでいたという不幸も手伝い、転入早々すっかり立ち向かう気力を失ってしまった。
 運動は好きで、少しは人に勝るケースもあったのだが、それは他の児童と比較して恵まれた体格に起因していた。これも不幸なことに、児童達に訪れる日々の成長は権太にとって後から数えた方が早かった朝礼の列の順番を、学期が変わる度に前に押し出すという事態を発生させ、それに伴い運動も人に誇れる成績は残せなくなっていった。

 日が経つにつれ、権太はクラスの中で特に注目されない存在になっていた。己を開かずうつろな目でたたずむ権太を、クラスメイト達もなんとなく敬遠していた。そして以前は愛敬のあった彼の外見も躓きの多い学校生活が原因による内面的変化により、陰鬱なものへと微妙に変化していった。

 権太が新しい学校に通うようになってから三年後。つまり彼が小学校六年生の時、彼の日常生活に劇的な変化が訪れた。多額の借金を日々の重労働で返済していた母の再婚である。一大事ではあったが、母ともなんとなく距離をおいていた権太にとって、その再婚話自体は軽い混乱を生じさせたものの、朝から夜遅くまでパート労働に苦しむ家計を考えてみれば、なるほどそういうものなのかと納得するのも早かった。
 しかし、その再婚相手を知った時、彼の情緒は大きく揺らいだ。
 母の再婚相手は、父のかつての友人だった。そう、金融機関から多額の借金をし、父を連帯保証人にし、その挙げ句自己破産で債務を押しつけてきた、権太達の経済苦の元凶であるあの男だった。権太も小学校二年生の頃、何度か家に遊びにきたその男と顔を合わせたことがある。父より背が高く、笑顔が明るい男だった。
 権太はこの再婚に反対した。と言ってもあまり激しくなく、愚痴程度にではあるが。弱い抵抗に止まったのには理由があった。新しく父になる男は、一家を支えるだけの逞しい経済力を伴っていたからである。破産した男がいかに経済力を立て直したのか、子供である権太には想像もつかなかった。しかし、男は初対面である権太に、最新のテレビゲーム機とソフトウエアをセットでプレゼントし、権太はそれを拒むことができなかった。母が言うには、残っていた借金も肩代わりして一括で返済してくれるそうである。母があの重労働から解放される。権太は喜んだが、そもそも重労働の原因である借金の借り主こそその新しい父なのだから、返済は当然のことである。この点に気がつくのに、権太は二週間の時間を要した。
 なんとなく理不尽さは残ったものの、権太はこの新しい生活を強く否定できなかった。

「なぁ権太くん。失敗したことってのは、死なない限り、いくらでもやり直すことができるんだ」
 新しい父は、そんなことを権太によく言ってきかせた。「死なない」という部分だけが、妙に生々しく権太には聞こえた。この頃から、権太は自分がどう生きてどう死ぬのか。そもそも自分とは何者になるのだろうか、つまり自己の存在というものを、なんとなく考える少年に成長しつつあった。

 自我の目覚めは彼が中学に進学する様になると、「何者かになりたい」という漠然とした願望ではあったものの強い自覚を伴って権太の心を突き動かした。中学という新たな環境で強い存在感を示すのはどうだろうか。しかし、送られてきた教科書を読み、彼は暗然たる気分に突き落とされた。小学校の勉強さえついていけなかったのだ。最も苦手だった算数は数学と名まで変えてより進化し、英語というこれもまた難解そうな新しい教科まである。そして事実、中学生としての日々が経つにつれ、権太は授業に全くついていけず、テストでも全ての教科で極めて低い点数をつけられるという厳しい結果しか残せなかった。
 幼稚園当時のリーダーシップも、小学校低学年当時の人を笑わせる才能も、この頃にはあまり有効に発揮することはなかった。目覚めた自我を、権太はどこに向かって高めていいのか全くわからず、精神的にもがき苦しみ泥の中を這いずり回るような重く鈍い日々が積み重ねられていった。
 思春期にさしかかった権太は鏡に映る大きくうつろな瞳、人よりやや突き出た歯茎、ちぢれた頭髪など、自らの外見を他人と比較して劣悪なものであると感じる様になり、内向的な性格に拍車がかかっていった。

 欲求不満の溜まる中学校生活であったものの、だが決してつまらないことばかりではなかった。一年生の第三学期、学年行事として行われた登山は、出発前こそ面倒で退屈そうだったため不平と不満の対象だったが、そこで見た自然の風景は、権太にある種の感動を引き起こした。


「ぼくの見た風けい」

 ぼくは、なんとなく、登山が嫌いでした。なぜなら、山に上るとつかれるし、マンガもよめなくて、つまらないからです。

 でも、桜井先生が、山はこんな都会とちがって、空気もいいし、すばらしいながめよ。といっていたので、ちょっときたいしていました。

 バスで学校から山に行きました。ずーっと走ると山につきました。

 なんだかくさいなぁ。とぼくは思いました。蒲田とはちがう、においがすると思いました。これが、山のにおいだと思いました。

 やま上りは、とても大変でした。ぼくは運動がニガテなので、はやくおわらないかなぁと思いました。二時間ぐらい山を上ると、昭島先生が、ここでストップといいました。おべんとうを食べて、そのあと、まわりを歩きました。すこし歩いていると、なんとぼくは道にまよってしまったのです。もう夕方なので、とてもこまりました。歩いても、だれも、先生方もいません。そうしたら林の向こうから、べつの山が見えました。

 山はとてもきれいで、とてもぼくは、とてもおどろきました。夕陽をあびた山は、なんだがとてもすごくきれいだと思いました。それからすこしして、バスがとまっているちゅう車場を見つけました。桜井先生に、とても、おこられました。でも、ぼくはあのきれいな山をゼッタイ忘れません。

権太が書いた作文「ぼくの見た風景」より

 たまに訪れる非日常的な行事も、権太の欲求を継続的に満足はさせなかった。相変わらず自分の存在を定義できず、そのため他人に対して主張のできない彼は、常に何かに苛立つ様になっていた。そして思春期の感情と育まれていない情緒は、自己表現を次第に暴力へと向かわせていった。それも家庭内にである。
 これまでの失敗は、すべて自分の育った環境に原因がある。権太はそう思うようになっていった。逃げた父、耐えた母、権太に気を遣う新しい父。そしてその価値観の内側にしか存在できない自分。中学で「しくじっている」自分はこの先、社会に適応できないだろう。閉ざされていた可能性を自覚してしまった権太は、激しい暴力を振るうことで、彼の知る最小の社会、すなわち家庭に対して訴えた。どうにかしてくれと。
 彼は学校を幾度も欠席するようになり、卒業こそできたがアルバムの集合写真は別枠となっていた。結局、高校への進学も、就職もできなかった。彼の社会はほんとうに家の中だけになってしまった。



 1991年。中学校を卒業してからの権太は、一日の大半を自分の部屋で過ごし、ただなんとなく生きていた。たまに外出して求人誌を買ってきても面接を受けるわけではなく、両親もそんな権太に対して精神的圧迫をかけることはなかった。
 義父は権太のために自動車修理工の就職先を見つけてきた。しかし権太はその誘いに乗らなかった。彼はうつろな目で義父を見上げ、
「自動車なんて、ぼくに修理できるわけないでしょ。それよりぼくには違うことができそうな気がするんだ」
 と、呟き、うっすらと笑いを浮かべた。
 他人と関わることなく、権太は一ヶ月が過ぎた。権太自身、このような生活がいつまでも続くものとは思えなかった。しかし、そこからの脱却の方法も具体的に思い付くことはできなかった。また、社会との隔絶は彼の内面にある、精神の薄暗さを肥大化させていた。
「いつかなんとかなるさ」
「このままじゃ終わらないさ」
 と、考え、気を楽にすることもあれば。
「このままで終わるのか?」
「なんともならないまま、時間だけが過ぎるのか?」
 と、気を重くし、陽と陰、躁と鬱が太陽と月の様に、彼の内でぐるぐると巡っていた。無業者でい続けることによって両親に対して精神的負担をかけ続けることが、権太にとって唯一の気晴らしであった。中学を卒業して以来、家族に対して暴力を振るう機会はなくなっていた。無職であることの後ろめたさが原因だったのだが、健太に自覚はなく、彼はただなんとなく、両親に対する腕力による主張を面倒と思っていた。
 中学校時代と大差の無い陰鬱な日常を、権太はぼんやりと過ごしていた。

 5月12日。気候もおだやかになろうとしていた春のある日。権太の家に一人の女性が訪れた。

「あ……え……?」
 玄関で来客に対応した権太は、間抜けなうめき声をあげた。
「久しぶりね、権太くん」
 来訪者は、権太の中学校一年当時の担任教師、桜井光子である。担任期間は一年のみだったが、権太にとっては若い女教師ということもあり、それなりに印象の深い存在だった。
「な、なんの用ですか?」
 権太には印象こそ深いが、縁の薄い彼女の来訪理由に何の見当もつかなかった。
「ほら、一年の頃担任だった桜井よ。権太くん、学校休みがちだったからって……忘れちゃったの?」
 桜井は微笑みを浮かべ、首をかしげた。決して美人ではないが愛敬と暖かみのあるこの女性に、権太は中学生の頃、少なからずの好意を抱いていた。
「い、いえ別に……」
 気の利いた台詞も言えず、
「で、なんの用ですか?」
 と、権太は尋ねた。
「……中学卒業してから、どうしたのかなぁって思って。今どうしてるの?」
「あ? 今? え、ええ……いろいろと……」
「進学とか就職とか」
 権太と桜井のやりとりは、全くかみ合っていなかった。
「あ、はい。しゅ、就職……いま、面接受けてて……来週には……」
「そぉ? よかったじゃない! 決まりそうなんだ」
「ま、まぁ……」
 桜井の意図を把握しかねたため、権太は咄嗟の嘘をついてしまった。
「うん……あのね。学校の帰り道でね、急に権太くんのこと思い出したのよ。そうしたらどうしてるのかなぁって……」
「ぼ、ぼくは大丈夫ですよ」
「ほんと? ねぇ、どんなお仕事するの?」
「じ、自動車とか……修理する……そんな……仕事……です」
 両の掌から汗が流れるのを、権太は自覚していた。先日コンビニエンスストアで出会ったかつてのクラスメートにも、同じような嘘をついた。これで二度目だ。三度目もあるのだろうか。いや、いっそのこと嘘ではなく、本当に自動車修理工になってしまってもいいかも。いや、そんなの全然自信がない。彼の頭の中は、小さく混乱していた。
「自動車の修理! すごいのね。権太くん、技術苦手だったのに」
「は、はぁ……」
 権太は掌を振り汗を払うと、ちぢれた頭髪を掻いた。
「なんとかなると思います」
「ほんとに?」
 桜井の疑問が、重ねた虚言のいずれを指したものなのか、権太には把握できなかった。
「あ、ええ……」
 眼前に立つ女教師に、権太は好意を抱いていたが、混乱した精神は彼女との関わり合いを拒絶しようと傾こうしていた。
「ねぇ権太くん。今度の日曜、ひま?」
「え!?」
 桜井のその言葉は、権太をますます混乱させた。
「どう?」
「ひ、ひまっス」
「よかったぁ! ねぇだったら今度の日曜日、先生と遊びに行かない?」
「あ? え!? どこです?」
 混乱は、権太の言葉から様々な過程を省いた。
「どこでもいいわよ。権太くんの好きなところで。就職のお祝いだもの」
 権太はそもそもの疑問に思考を巡らせることなく、桜井と自分との行楽風景を思い描いた。
「い、一年の頃……行った……」
「うん」
「あの、山に……」
「乾徳山ね。ハイキングね。いいわよ、先生好きだから」
「え!?」
「じゃあ日曜日の朝七時、駅で待ち合わせしましょう」
「は、はい」
「学校行ってないからって、寝坊ぐせつけてちゃだめよ。時間は厳守なんだから」
「はい!」
 権太は立ち去る桜井を呆然と見送っていた。
「先生……好きだから……」
 その言葉が、権太の思考を占拠していた。彼はその日、両親に対して久しぶりとなる暴力を振るった。
「桜井先生に何言ったんだよ!」
 しかし両親は、身の覚えの無い権太の疑念に、明確な回答を示すことはできなかった。

 疑念とささやかな期待が、十五歳の権太を混乱させていた。


 疑念と妄想を抱いたまま。権太と桜井はハイキングコースを歩いていた。権太にとっては数年ぶりに訪れる大自然であった。あの当時、桜井は列の先頭に、体力の無い権太は最後尾近くにいた。しかし現在、二人の間には何者の存在もなかった。歩くにしたがい、妄想は疑念を覆い隠した。

 先生は……俺のことが好きなんだ……でなきゃこんな俺を登山に誘うわけがねぇ……。

 妄想は度合いを強め、権太の狭い思考を支配していた。
「ちょっと休みましょうか?」
 桜井の提案により、二人はコースからやや外れた岩場に腰掛けた。
「飲む?」
 桜井は水筒を差し出し、権太はうなずくとそれを受け取った。

 先生の……水筒……

 水筒の液体が権太の身体を潤した。妄想はやがて確信へと変化していった。
「ねぇ権太くん」
「うぁ? はい?」
 権太は水筒を桜井に戻すと、口を拭った。
「どこで働くの?」
「え……まぁ……」
「……」
 権太は答えあぐねた。そんな元教え子を、桜井はうつろな視線で見つめていた。
「き、近所っス……近所に工場があるでしょ? って知らないか」
「そう……近所の工場なんだ。でさ、いつから働くの?」
「なん……だ?」
 桜井からの立て続けとなる質問に、権太は戸惑った。彼はわずかに思考を巡らせると、ある認識に至った。

 そういや、先生、妙に俺の就職……気にするな……。

 認識は、ある結論を導き出した。
「さ、桜井先生。先生、俺に仕事紹介してくれんですか?」
 一瞬、権太と桜井の間にすずやかな山風が吹いた。桜井は髪を掻き上げると、権太に怪訝な表情を向けた。
「権太くん。先生に嘘ついてるでしょ」
「え? う、うぁ……」
「就職が決まったなんて嘘でしょ」
「ほ、ほんとっス!」
 予測とは全く異なる桜井の教師然とした態度に、権太は強く混乱した。
「嘘よ。面接を受けて、結果も出てないのに、もうそこで働くのが決まった様な言いぶりして!」
 桜井の追及は、教師としてあまり上手とは言えなかった。権太の混乱は恐れに変化し、彼は目眩を覚えた。
「あ? え? せ、先生……」
「だめじゃない、ちゃんとしないと」
「で、で? あ? だ?」
「先生、権太くんがどうなったのか、ズッと心配してたのよ」
「あはは……」
 その言葉によって、権太の意識は救われ、目眩は治まった。彼は混乱から立ち直ると、桜井の手を取った。
「せ、先生、心配してくれて、ぼく、ぼく!」
 権太は大きな目を見開くと、哀願の表情を桜井に向けた。しかし、権太の悪相は、桜井に別の展開を想起させた。
「い、いや!」
「う、嬉しいよ先生!」
 手を握る力を、権太は一層強くした。
「やめて!」
 桜井は空いている足で、権太を蹴り放した。
「グァ! ゲ、ゲボ!」
 蹴り足は、権太の腹部を強打した。彼は身を縮こまらせ、岩場で悶絶した。
「せ、先生になにするの! 権太くん、そうしてご両親にも暴力で!」
 混乱した意識は、彼女に支離滅裂な言葉を放たせた。
「せ、先生……ぼくのこと……好きだって……」
「誰がそんなこと言ったのよ! 先生、権太くんが卒業してもブラブラしてるって聞いたから、先生にも責任があるって思って、そんなの気持ち悪いから、ほんとのこと聞きたかったのよ!」
 桜井の言語は、明瞭かつ彼女の本音に近すぎた。他人の、大人の、それも女性の本音など、権太には到底理解できなかった。
「なんだ! 先生は自分のことばかりで!」
 その権太の言葉も、意味として桜井には届いてはいなかった。
「あなたが悪いんでしょ! ちゃんとしてないから!」
「してる! 俺、ちゃんとしてる!」
 悔しさ故、権太の両眼から、大量の水分が分泌されようとしていた。内向性が育んだ彼の悪相といえども、その様子は桜井の教師としての本分を刺激し、彼女はこれ以上の糾弾を諦めることにした。
「と、とにかく、先生、先に帰るからね!」
 かつての担任教師であった責任を放棄し、桜井は権太に背を向けた。
「なんで帰るんだよー!」
 手を掴み力尽くで引き留める手段もあったのだが、身体による訴えがいかなる悲惨な結果をもたらすのか、今の権太にはよく理解できた。彼はただ、大声を出すことで相手との関係を修復しようとしていた。しかしその行為も、桜井にとっては不愉快なわめき声でしかなかった。

 桜井の自尊心は、権太の虚栄と下心によって裏切られてしまった。だが桜井が権太に唐突なる再会を求めたのも、結局は自身の虚栄心を満たすための行為でしかなかった。本人こそ気づいてはいないが、桜井光子は権太の中に自分を見出してしまった。もちろん権太にはそんな複雑な事情などは理解できるはずもなく、ただ自分が他人に嫌われたという事実ばかりが残ってしまった。

「うぉーん、うぉーん!」
 それから数時間後、権太は泣き叫びながら、薄暗くなった山を歩いていた。
「うぉーん、うぉーん!」
 幾度ともらすうち、この鳴咽も感情の発露ではなく確信的な発声へと次第に変化していった。しかし落ち着いてしまう心に声を合わせることを、この時の権太は最も嫌っていた。
「うごうぉーん! うごごーん!」
 獣の様に吠えてやる。自分はそれほどひどい目に遭ったのだから。落ち着いてなどやるものか。だがそうした意地も、発声によるストレスの発散のため、心の平静をより早く取り戻す結果となってしまった。
「ぐふぅ……ぐぅ……」
 仕方なく、権太は息を吐き出し周囲に注意を向けた。薄暗い林。均されることもない舗装のされていない地面。無意識に上へ上へと歩を進めていたためか、辺りの景色は彼にとっても見覚えのないものに変化していた。
「あ、うぁ……」
 三年前と同様、権太は道に迷った。


 すっかり真っ暗になってしまった林の中に、権太はいた。五月とは言え、山を抜ける風は冷たい。トレーナー姿の権太は、うずくまり、ただ震えていた。
「な……なんでこんなことに……桜井めぇ! 山を下りたら復讐してやる!」
 芝居がかった台詞を権太はぶつぶつとつぶやいた。そうすることで悔しさは増し、怒りと悲しみに内面が支配された。それは権太にとって、心地のいい、格好がつく状態であった。
「んぁ……?」
 権太は、闇の中に物音を認めた。それはこの数時間に聞いた自然や動物によって発せられるものではない、ひどく機械的な物音であった。

 木を切ったりする機械? 農業とかの機械?

 そう考えてみたが、農業機械の音など明瞭なる記憶としては残っていない。こうなると音の正体を視覚で確かめるしかない。もしかしたらこの遭難状況を改善するきっかけになるかもしれない。権太は立ち上がると、頼りない足取りで物音の方角へと向かった。歩くにつれ、音は次第に大きく明瞭となり、権太の思考に推理を促せた。

 すげー早い音だ、なにかが回転してるんだ。

 すると、その回転音にまざり、人の声が耳に入ってきた。権太は声に警戒すると、身体を手近な大木に隠し、音の方角を窺った。適度な緊張は彼の知覚をいつも以上に、ようやく人並みにさせていた。権太はまず、自分が崖付近にいることを、音の方角からうっすらとした光が射していることを、そして自分がなにか危険なものへと近づいている事実を、ぼんやりとしながらも順を追って認識しようとしていた。

「ここに設置すればいいのですね」
「そうだ、その×印にドリルを打ち込んでくれ」
 黒い衣服を着た三人の男達が、設置されたライトの灯りに照らされていた。彼らのうち一人は両手に大きな掘削ドリルを持っており、権太から見ても、それは日常的な光景ではなかった。

 あいつらの持ってる機械……大きいのに音が小せぇ……それに格好がへんだぜ……。

 権太がそう感じた通り、男達の服装は風景とはおよそ不似合いだった。彼らは一様に、おそらく皮製の、身体によくフィットした同じデザインの着衣をしている。そして男達のうち二名の両手からは、鉤状の刃物のようなシルエットが浮かび上がっていた。

 あ、ありゃ……よくねぇって……ぜってぇよくねぇって……。

 危険を察知した権太は、この場から逃れようとした。本人にしてみれば、しなやかにすみやかに、より遠くへ身体を運んだつもりであった。しかし混乱した意識は、そうした動作を邪魔した。彼は激しい物音とともに、地面に転倒した。
「!?」
 権太の発した物音に、三人組は素早く反応した。立ち上がった権太は、だがすでに囲まれていた。
「あ、あう……うぁ……」
 眼前に立つ男は、権太よりずっと背が高く、またそれに見合った身体の厚みもあった。またその大男だけは他の二名と違い、両手に刃物は付けていなかった。
「道に迷った登山者だな」
 大男の声は低く落ち着き、高い知性を感じさせた。その声により、権太の恐怖は若干軽減された。しかしライトからの光がちょうど大男の背後から射し込んでいたため、その容姿をはっきりと認識することはできず、決して安心することはできなかった。
「ほ、ぼく、なにも見てないっス!」
 ありきたりではあったが、権太にはこんな言葉しか思い付かなかった。
「そうか……だがかわいそうだな」
「え?」
「今見ているだろ」
 大男の、ひどく生真面目で間抜けな正論に権太は呆けてしまったが、すぐに恐怖が再来した。
「あ、でも誰にも言いません!」
 権太の弁明に、だが男は首を横に振ってつぶやいた。
「だめなんだよ……こうなると二つの道しか残っていない」
「一つは死ぬか」
 そう言ったのは権太の右後ろに立つ、別の男であった。
「もう一つは仲間になるか」
 今度は左後ろに立つ男がそうつぶやいた。

 な、なんだってーの! こ、こいつら、落ち着いてるよ!

 何かの作業、それも秘密の作業を自分は目撃してしまった。しかしその当事者達は、威嚇も弱く、まるで事務的に事を進めようとしている。権太にとっては桜井の言動以上に、それは理解しかねる現状だった。そしてゆるやかなる事態の進展は、己の左右後ろに立つ男達をしっかりと見る余裕を与えた。
「ひぃ!」
 しかしその余裕こそが、権太の僅かな正気を奪う結果となってしまった。人としてはあまりに手足が長すぎる体型。まばらな髪に傷だらけの頭。両手に付けられた鉤爪状の武器。左右の男達の容姿は、権太を上回る奇相の持ち主だった。
「眠れ」
「起きるかどうかは」
「貴様の転換特性次第だ」
 三人組はゆっくり、権太との間合いを詰めた。
「ひ……ひぁ……」
 権太はどうすることもできず、ただ震えていた。やがて大男の手が権太の頭に触れ、そして何かが刺激した。
「ぐふ……」
 意識を失い、権太はその場に倒れた。大男は権太が背負っていたリュックを丁寧にはずすと、それを拾い上げ見つめた。
「ふん……」
 左右の奇相達も、リュックを観察した。
「名前が書いてありますね」
「ああ……中学生のようだな。こいつ……泣いていた?」
 大男には、今日権太が直面した事態など知る由もなかった。
「きりしょう……ごんた?」
「違うぞ、ルビがふってある」
「あ、ほんとだな」
 奇相達は、リュックに付いていたネームプレートを、大男に向けた。
「きじぞう……きじぞうけんたか……」
 生まれてから、迷い、閉じ、荒れ、さまよった権太であった。雉像権太十五歳。彼の短い物語はここからはじまる。


第一話「死んでいた頃」おわり

第二話へ