第十二話「対決! サンダー対ムーン!」 …1 「三人か…。」  エレベーターから出た由鷹は戦況を確認した。  人生特晴海研究所に侵入した正体不明のカスタム・クリーチャー「ナイト・ファイブ」は、研究所の警備システムを突破した。彼等のうちの一人「ヤカラン」はDランクながらも由鷹に負傷を負わせることに成功していた。 「Dランク…。ある意味ではもっとも警戒しなければならない  連中だ…。」  とは、以前竜が由鷹に漏らしていた言葉である。由鷹は半年振りにその意味を噛みしめながら、廊下の奥を見据えた。廊下のつき当りではシグメッツと転換者らしき三人組が対峙している。 「ヤカランもいるな…。ん?」  由鷹は右から来る気配を察知した。二型を装着した陽子、すなわちハルメッツである。 「陽子さん。」 「敵の気配が妙ね…。固定ポイントから増えたり  減ったりしているわ…。」 「ああ、それには気づいてる…。」 由鷹とハルメッツはシグメッツの方に駆け寄って行った。 「乱か…。」  シグメッツは体のあちこちが損傷している。 「神白君。兵堂君達は?」 「兵堂は地下一階でシグメッツの二号機を受け取りに行きました。  残りは…。」 「お、俺達が殺したぎゃ。」 由鷹とハルメッツはその声に振り向いた。シグメッツと対峙している転換者からである。声の主は隻眼であり三人の中でも一際背が高く、コートのため体格もはっきりしないが肩幅は広い。 「あんたら…。ナイトファイブとかか…。」 「そうぎゃ。」 ハルメッツが尋ねた。 「貴方達の目的は何ですか! 答えなさい!」 「バ、バンガードよぉ…。」 由鷹との戦闘で左腕を失ったヤカランがなさけなく大男…。バンガードを見上げた。 「お、おおう…。かーいそうに。まま、入れや。」 「うん!」 ヤカランはバンガードのコートの中に喜々としてもぐり込んだ。 「な、なんなのよ…。」 ハルメッツは質問が完全に無視されてしまった為、いらついた。 「うふぅ…。」 バーンガードは大きくため息をついた。するとなにも無かったはずの左目が奇怪な音をたて出現した。バンガード自体の体格も多少大きくなった様だ。 「ご、合成…。」  三人の中では一番優れた判断力を持つ仮面捜査官がそうつぶやいた。 「そうぎゃ。ナイトファイブたぁそういう意味ぎゃ。  リッツおまえも入れ。」  バンガードにそう指示された三人組の方割れの女性は首をブルブルと振った。 「やだ! やだやだ!」  リッツと呼ばれるその女性は顔こそは造形物の様に美しいが、その頭部をささえるはずの首がなく、背は丸まっており異様な姿をしている。 「…。」  由鷹達はこのナイトファイブ達に言い様のない嫌悪感を抱いていた。シグメッツがつぶやく。 「こりゃ…。フリークスの展覧会か東京アワーだな…。」  聞き分けのないリッツにバンガードの平手が飛んだ。 「ばか! 言うこときけ! きけ! 連中は強いんだ!  ムーンが引き分ける程強いんだ!  陣組みかショットプレイでなきゃ俺達死ぬのだぎゃ!  お前一人のわがままで皆には迷惑かけられんぎゃ!」 「う、ううう…。」 リッツは床にうずくまり泣き出した。ハルメッツがWEED砲を構える。 「こいつらの学芸会につき合ってる余裕はないわ…。」 シグメッツもそれに同調する。 「そうですね、班長。」 「神白君…。」 「…先ほどの行動を認めた訳ではありません…。」 「う、うん…。」 ナイトファイブと同程度の茶番劇を演じる陽子と神白に、正直いらつきながら、由鷹は一歩前に出た。 「こい! ナイトファィブ!」 「リーツッ!」 「うん!」 リッツはバンガードのコートにヤカラン同様もぐり込んだ。バンガードは体の右側を中心に一際大柄になる。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」  由鷹はバンガードになぐりかかった。しかしバンガードは左手を突き出すと由鷹の拳をわし掴みにした。 「ちぃ!」  由鷹は拳を戻そうとしたが、バンガードの異様なまでの握力によりそれも叶わない。 「五人が一人になったナイトファィブをなめたらひどいぎゃ!」  バンガードは手に力を込めた。鈍い音をたてて由鷹の右拳が砕ける。 「ぐぁぁぁぁぁぁ!」 「由鷹くん!」 ハルメッツはWEED砲を発射しようとしたが躊躇した。由鷹が邪魔で撃てないのだ。シグメッツが身構え、両肩のハッチを開いた。 「えぇぇぇぇぇぇい!」 シグメッツの両肩から凄さまじい光りが放たれた。エネルギーが極端に少ないその光はバンガードの視力を一時的に奪った。 「ぎゃぎゃぎゃ!」 バンガードは右手で顔を押えた。その隙にシグメッツがバンガードの右脇に回り込む。由鷹はバンガードの隙を利用し、回転しながらバンガードの顎を蹴り上げ後ろへジャンプした。 「由鷹くん…。大丈夫?」 「右手をつぶされた…。油断した…。あいつ…。  転換しなくても、かなりの力を持っている…。」   バンガードの側面に回り込んだシグメッツはすかさず右手を突き出した。 「ニードル!」  シグメッツの右手のハッチが開き中からニードルが突き出た。 「ぎゃ!」 ニードルは苦しがるバンガードの右脇腹あたりを貫いた。 「放電開始!」 ニードルから放電が開始された。凄さまじい放電音が廊下に鳴り響く。 「サンダー並みとは言えんが瞬間電圧二万ボルトの  ニードルサンダーだ! 転換前の身には堪えるだろう!」 シグメッツのバイザーが放電の照り返しにより輝いた。 「ぎゃー! ぎゃっ! ぎゃぎゃ!…。なーんちゃって…。」 バンガードはおどけた笑みをシグメッツに向けた。 「俺の右足ヒメナは電気を放出する! アースパイルってことよ!」 「な、なにぃ!」  「逝っちまいな!」  バンガードは両拳を合わせるとシグメッツの後頭部にそれを振り下ろした。 「ぐぁっ!」 シグメッツは地面に叩きつけられた。 「な、なんて力なの…。」 ハルメッツは改めてナイトファイブの力に恐怖した。電気流出はサンダーのかつてのライバル、アースことサンダーラーキラーが最も得意としていた技である。そして特殊能力もさることながら、その格闘能力、腕力ともBランク以上である。 「ほ、本当にDランクなの…。」 「ぎゃぎゃ! くたばるぎゃ!」 バンガードは左目から触手を出すとそれをハルメッツ目がけて振った。 「な、なんて攻撃!」 ハルメッツは驚愕しつつも触手を回避した。 「危ない!」 由鷹は回避するハルメッツに飛びかかり、覆い被さった。それた触手は天井に衝突すると爆発をおこした。 「うぁっ!」 爆風と爆発の破片が由鷹に襲いかかった。 「あ、ああ…。」 由鷹に押し倒される形になったハルメッツはバイザーを開き、上に乗る由鷹の様子を伺った。 「この手に引っかかったのは二度目だ…。はは…。」  傷だらけの由鷹は強がって笑って見せた。陽子はふらつきながらも由鷹を壁によりかかせ、立ち上がる。 「ツインWEED…。砲…。」  陽子は両手にWEED砲をつけるとバンガードに向け構えた。 「発射ぁ!」 WEED弾はバンガードに命中したかと思った。しかしバンガードは体を五分し、それを回避した。 「ええっ?」 五つに分離したバンガード…。ナイトファイブはある者は床に、ある者は壁に、そしてまたある者は天井にその身を寄せていた。 「ぎゃぎゃ…。」 「…。」 「ひゅーむ…。」 「お、お、お。」 「るるるん…。」 五人の転換者はそれぞれハルメッツの挙動を伺っていた。そして天助に張り付いていた幼女がしびれをきらしてハルメッツに襲いかかる。 「るーるるるー!」 幼女は胴体から緑色の液体を発射した。液体はハルメッツの足に付着すると彼女の自由を奪った。 「粘液?」 「そうよっ!」 幼女はハルメッツの頭部に取り付くと、牙を向き頭部に噛みつき唾液を垂れ流した。ハルメッツの頭部装甲が唾液によりみるみるうちに溶解していく。 「ええい!」  ハルメッツはWEED砲の砲門を幼女に向けた。しかし幼女はすかさずジャンプをすると床に着地した。 「どぉう? バンガード!」 「さすがぎゃ!」 残りの四人は一斉に拍手を始めた。ハルメッツは頭部装甲、すなわちヘルメットを脱ぎ捨てた。 「…。」  陽子は幼女を睨みつけた。幼女はそれに呼応するように微笑む。 「うふ、るるるん…。わたしはね。Dランク、ヒメナ。  わたしのよーかいえきはどぉ?」  ヒメナはたどたどしく喋った。陽子はWEED砲を再びヒメナに向けた。 「子供にはきつくしつけをしないとね…。」 「こ、子供だとぉ!」 ヒメナは激怒した。しかし彼女の背後から別の影が、陽子目がけて襲いかかった。バンガードがそれを止める。 「やめ! ゲルナック! 各個で攻めすぎたら返りうちだぎゃ!」  影は返事をした。 「やーだよーん!」 ゲルナックは足の裏からパイルを出しながら陽子にキックを仕掛けた。 「たぁ!」  陽子はそれをジャンプして回避すると、WEED弾を一発ゲルナックに命中させた。 「うげーっ!」 ゲルナックは左肩をWEED弾によって溶かされた。彼はバンガード目がけ走って行った。 「いたーいでーすねー! シクシク…。」 「いわんことないだぎゃ。WEED弾はあんたのスピードじゃ  かわせないぎゃ! ヒメナ! リッツ!」 「はーい!」 「うん!」 ヒメナとリッツは陽子に襲いかかった。リッツは床をヒメナは天井を走りながらである。 「いち!」 リッツは右手をドリル状にすると陽子に下部から襲いかかった。 「う!」 陽子は美女リッツの以外と素早い速攻に驚きつつ、ジャンプでそれを回避した。しかしその頭上には幼女ヒメナが待ちかまえていた。 「にの!」 ヒメナは溶解液を吐いた。寸手で回避する陽子だったが左肩に命中してしまい、溶けた装甲からその地肌が露出する。 「うぁぁぁぁぁ!」  陽子は床に叩きつけられた。リッツがドリルを、ヒメナが溶解液をたっぷりとつけたコンバットナイフでそれぞれ陽子に飛びかかる。二人は同時に叫んだ。 「さん!」  しかし二人の女性転換者は別方向から来る電撃を回避する為に、陽子にとどめを刺すのをあきらめた。 「な!」 「なによ!」  ヒメナとリッツはそれぞれ着地した。電撃の発射方向には左手を突き出した由鷹が肩で息をしながら立っている。 「はぁ、はぁ、はぁ…。」 ゲルナックが叫んだ。 「な、生身で電気が出ーせるーのかー!」 「ゆ、由鷹くん…。」 「さがってて…。」  「え、ええ。」 陽子は由鷹に言われるがままに由鷹の後ろに下がった。由鷹はバンガードの後ろで気絶しているシグメッツをちらりと見ると叫んだ。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 閃光!」 由鷹はサンダーに転換すると身構えた。 「サンダーァァァァァァァァァァ! シャワァァァァァァァァ!」  サンダーの両手から前方に向け、十本の電撃波が発射された。 「合わされー!」 電撃波の無い、廊下の中央空間にナイトファイブの面々は飛び、そしてバンガードへ融合した。 「うぉぉぉぉぉぉぉ!」  サンダーは左拳からボルトを突き出すと放電させながらバンガードの融合体へ向けてサンダーパンチを繰り出した。 「パイル!」 サンダーパンチの電気はことごとく地面へと放出された。しかしその一瞬の隙をつき、サンダーの右拳がバンガードの顔面に命中する。 「ぎゃー!」 バンガードは二メートル程吹き飛ばされると床に叩きつけられた。「ぎゃ…。ぎゃぎゃ…。なんてパンチだぎゃ…。」 「…。」  サンダーは気絶しているシグメッツを乗り越え、バンガードへと歩み寄った。 「く、くそったれぎゃ。」  バンガードは立ち上がった。そして左目から触手を伸ばした。 「ぎゃーすっ!」 「サンダープロテクト!」 サンダーの張った電気膜に触手は命中した。そのため爆風により吹き飛ばされたのはバンガード本人の方であった。 「ぎゃっ!」 サンダーはバンガードの背後が出口であることを確認すると、サンダーノヴァの体勢に移った。 「サンダーァァァァァァァァァァァァァァァ!」 「き、きかないぎゃ! パイルがあるぎゃ!」 バンガード、ナイトファイブ達は恐怖していた。いくらパイルで電気放出ができるといってもその間、彼等は全く無防備になってしまうからだ。 「ノヴァァァァァァァァァァァァァァァァ!」 サンダーは電気嵐を発射した。四方の壁は崩れ去り、研究所はそのため半壊してしまった。バンガードは足の裏のパイルを引き抜くと、建物の崩壊によりできた上方の空間に跳躍し、ノヴァを回避した。 「ぎゃ?」  空中に逃れたバンガードを待ちかまえていたのは、やはり同様に空中にとんだサンダーの回し蹴りであった。 「ぐぎゃーっ!」  バンガードは回し蹴りをまともにくらってしまった。三メートル上空から、バンガードは地面に叩きつけられた。 「ぎょ…。ぎょぎょ…。」 バンガードは地面に伏したままである。サンダーは片足から地面に着地した。当りは晴海研究所の外、玄関近くである。 「ナイトファイブ…。お前達の黒幕…。ファイブはどこにいる。」 「い、いえるぎゃ!」 「そうか…。」 「ついにとっておきを見せるときが来たぎゃ! ヤカラン!  ゲルナック! ヒメナ! リッツ!  サンダーにシュートプレイ&陣組みを仕掛けるぎゃ!」 「…。」 「はーいー!」 「るるん!」 「うん!」 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 バンガードは立ち上がると体を大の字に広げると殺気を高めていった。サンダーはノヴァによる体力消耗を呼吸によって回復させると、身構えた。 「ショット!」  バンガードの叫びに呼応する様に彼の体は再び五分された。そしてバンガード以外の四人がサンダーに襲いかかる。ヤカランは紐状にした手で、ゲルナックは足の裏のパイルで、リッツはドリル状の左手で、ヒメナは口からの溶解液で、それぞれサンダーに襲いかかった。 「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」 サンダーは右手で触手の爆発を防ぎ、左手でパイルを叩き落し、左足でドリルを払い、後方に飛び溶解液を回避した。 「す、すげ…。」  五型を着込んだ兵堂がサンダーの戦い振りを見て驚愕した。彼が始めてサンダーの実戦を見た、あの由鷹宅での対ギロスティン戦のときより、サンダーの戦闘力ははるかにパワーアップしている。 「ゆ、由鷹くん…。」 半壊した研究所から外に出た陽子も、サンダーの冷静な闘法に感嘆の息を漏らした。こうなると彼女の出る幕はない。ショットプレイに失敗したナイトファイブの四人は四散するとサンダーを囲む様にポイントを定め着地した。サンダーの前方五メートルに位置するバンガードが四人に指示を出した。 「陣組! 始めだぎゃ!」  四人は頷くとヤカラン、ゲルナック、リッツ、ヒメナの順にサンダーに連続攻撃を開始した。サンダーもそれをことごとく受け流すのだが、さすがに反撃することはできない。連続攻撃は一分間に渡って続いた。 「はぁはぁはぁ…。」 「ふぅふぅふぅ…。」 サンダーもヤカラン達も疲れを実感し始めていた。 『俺を疲れさせて…。バンガードとかいう奴が  とどめを刺すっていうのか…。しかしな…。』  サンダーはバンガードを改めて見た。四人が融合しているときはともかく、単体でのバンガードはまるで老人の様にやせ細っている。 「もういいぎゃ! 陣組の仕上げをするぎゃ!」 「…。」 「は、はぁ…。」 「う、うん…。」 「うん…。」  四人は疲れ切った表情でバンガードに向って走って行こうとした。「融合などさせるかぁ!」 サンダーはヤカランに標的を定め、一歩踏み出した。しかしサンダーは踏み出した足に異物感を感じた。 「ね、粘着液か!」 「あはははは! そうだよ! かかったな!」 ヒメナは振り向いていたずらっぽく微笑みながらサンダーに向って言った。 「な…。なにぃ!」 サンダーは周囲を見渡して驚愕した。サンダーを中心とした半径四十センチメートルは粘液の水溜りとなっており、さらに八十センチメートル四方のアスファルトはドリルにより堀が形成されていている。そしてその堀は茶色い液体で満たされていた。 「ショ…。ショットプレイって…。」 陽子は茶色い液体がヒメナが吐き出した液体爆薬であることに気がついた。しかし戦闘機能の大半がマヒしているハルメッツでは、サンダーの援護も満足に出来ない。 「班長! サンダー…。いえ! 乱由鷹を援護します!」 シグメッツとなった兵堂がバンガード目がけて特別高機動装置「ムービング・S」を全開にしながら突進していった。 「来るな! 神白! 危険だ!」 サンダーはシグメッツに向ってそう叫んだ。 「自分は兵堂であります!」 「ロ、ロボットがまた来たのぎゃ?」  融合を終らせたバンガードが身構えた。サンダーも兵堂を援護するためサンダースラッシュの体勢に入る。 「サンダーァァァァァァ! スラァァァァァァァァシュ!」 電気刀は、だがしかしパイルによって地面に流された。兵堂はWEEDキャノンの照準を合わせるとWEED砲弾を発射した。 「ファイヤー!」 「ヤカラン!」 「ひょー!」 バンガードに呼ばれたヤカランは左目から触手となって飛び出した。 「ひょ! ひょひょーっ!」 WEED砲弾は触手を根こそぎ消滅させた。バンガードが狼狽する。 「ば、ばぎゃな…。WEED弾丸じゃないのぎゃ?」 「つぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 兵堂は左手から収納ヒートナイフを引き出すとバンガードに斬りつけた。 「ぎゃぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 バンガードは右足のパイルでヒートナイフを受けると右手のドリルで兵堂、シグメッツの左肩部を貫いた。 「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 兵堂は絶叫した。バンガードは力任せに兵堂を放り投げた。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!」 「う、うおっ!」  兵堂は地面に叩きつけられた。バンガードは地面にうずくまると必死になってそ左目をさすった。 「ヤカラン! ヤカラン! どーしたんだよぉ!」 さする右手、ヒメナは必死に同僚の名を叫んだ。しかし左目は溶け落ちた触手をだらしなく伸ばすのみである。 「う、うおおーん!」 バンガードは残った右目から大量の水分を発散すると奇怪な泣き声をあげた。 「死んじまったのぎゃ? ヤカランよー!」 「うぇ…。ひっく…。」 「ば、ばか、泣いたらだめよ! ヒメちゃん!」 「なーんてこーとですーかー!」  一人になった四人はそれぞれ悲観の声をあげた。 「俺が馬鹿だったぎゃ! 俺が馬鹿だったぎゃー!」 バンガードは両手を地面に叩きつけた。 「いたい!」 「きゃん!」  リッツとヒメナがそれぞれ悲鳴を上げた。我にかえったバンガードがおもむろに立ち上がる。 「サ、サンダーァァァァァァァ!」   バンガードは凄さまじい形相でサンダーを睨みつけた。 「くっ! なんて強力な粘液だ…。全く身動きがとれん…。」  サンダーは、ヒメナの粘液が予想以上に強力な事実に恐怖していた。しかし彼はまだ堀の中の液体の正体を知らない。 『仮にバンガードが接近戦に持ち込んできたら、  パイルを叩き折って最大放電を食らわせてやる…。  もし飛び道具だったらプロテクトで防げばいい…。』 バンガードは空中高くジャンプすると、左手から溶解液を発射した。 「プロテクトォ!」 サンダーは電気膜により溶解液を防いだ。しかしその時である。サンダーがプロテクトをするのと同時に着地したバンガードは左手より赤い液体を発射した。 「ぎゃぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」 「?」 サンダーがプロテクトを解除するのと同時に堀の液体爆薬が一斉に火を吹き出し大爆発をおこした。 「由鷹くーん!」  陽子はようやく「ショットプレイ&陣組」の全容を理解した。 「あ、あの連続攻撃は…。この爆発エリアを作るための  カモフラージュだったのね…。」 陽子の判断通りであった。ヤカラン達四人の連続攻撃は、全てはこの仕上げの為にあったのだ。リッツのドリルで地面を掘り起こし、ヒメナの粘着液と液体爆薬を攻撃の合間に効果的にセッティングする。そしてヤカランとゲルナックはリッツとヒメナの作業からサンダーの注意をそらすための「かげり」だったのである。  爆発は暫くの間続いた。陽子は強烈な光りと爆風から身を守るためにその場に座り込み、研究所から出てきた実戦隊員達は物陰に身を隠した。 「ぎょぎょぎょ…。」 バンガードは爆発を見つめていた。 「死んだ…。死んだに決まっているぎゃ…。」 爆発はようやく収まろうとしていた。爆風が晴れる。 「あ、跡形もなく死んだぎゃ!」 爆発の中央点にはサンダーの影も形も無かった。バンガードは涙を流しつつも満面の笑みを浮かべた。 「ぎょぎょぎょ…!」 しかし、その笑みも長くは続かなかった。バンガードは後方上空からの気配に振り向いた。 「スラァァァァァァァァァァァァァシュッ!」 サンダーである。電気刀はバンガードの右足を切り落とした。 「ぎゃぎゃぎゃー!」 「な、なんででーすかー!」 「腕」から人間体に戻ったゲルナックが叫んだ。サンダーはサンダーパンチを片足、隻眼のバンガードに十発程連続で打ち込んだ。 「うおおおおおおおおおおお!」 「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃぎゃぎゃん!」 バンガードは全身から煙を吹き出しながら倒れた。 「残念だったな。粘着液に接地しているアスファルトごと、  スラッシュで斬り取ってしまえば身動きは取れる…。  もう一度聞く。ファイブの居場所を教えるんだ。」 「ぎゃ…。」 ナイトファイブは満足に返事が出来ないほどのダメージを受けていた。 「教えないのなら…。」 サンダーはサンダーノヴァの体勢に移った。 「ノヴァをくれてやる…。」 「ぎゃ…。」  バンガード達は後悔していた。しかし、その時サンダーの耳に彼の注意をそらすには充分過ぎる音が聞こえてきた。 「バイク…。」 サンダーはノヴァをあきらめ、音の方向を見た。バイクの音はサンダーの前方十五メートルの地点で止まった。無形祐嗣のハーレーである。無形はヘルメットを脱ぐとハーレーから降りた。 「乱! いいかげんに弱いものイジメはよさねーか!」 「ム、ムーン!」 バンガードはムーンに駆け寄っていくと彼の後ろに隠れた。 「大丈夫だったか! ナイトファイブ!」 「ぎゃぎゃ、ヤカランがやられたぎゃ!」 「そうか…。しかしお前達どうしてこんなアホな真似した?  っと…。今はそれどこじゃねーなー!」  無形はコンバットナイフを引き抜くと刃を下にして前に突き出した。 「乱! 俺様が相手だ! きやがれ!」 「ムーンか! いいだろう! かかってこい!」  陽子は戦況の目まぐるしい変化について行くのがやっとであった。 「あの男が…。本当に最後のAランク…。ムーンなの。」  無形のコンバットナイフに光りが走った。 「光臨! ムーン!」 無形はAランクムーンに転換した。陽子はとっさに通信機で指示を出した。 「研究班は至急データーの収集を! 実戦隊は戦闘準備に入れ!」  結局彼女はいまだに内生特の班長なのである。 「あのバイク…。」  陽子は無形自身より彼のバイクに注意を払っていた。 「グラビトンボォォォォォォォォォォォル!」 ムーンは重力球をサンダーに向けて発射した。 「プロテクト!」 サンダーは重力球を走りながらのプロテクトで防ぐと、右手でスラッシュ、左手でサンダーパンチを繰り出した。 「くっくぅ!」 ムーンはサンダーパンチこそ確実に回避したが、スラッシュを右太股にうけてしまった。 「えぇぇぇぇぇぇぇぇい!」 サンダーはムーンとすれ違ったと同時に、回し蹴りをムーンくらわせようとした。しかしムーンもそれを右手でブロックしつつ、左手で低出力のグラビトンボールをサンダーの腹にヒットさせた。 「ぐぁ!」 「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ムーンは両腕から重力波を発生させながら、サンダーの後頭部にそれを叩きつけた。 「うぉっ!」 サンダーは地面に叩きつけられそうになりながらも、前転してムーンとの間合いを広げた。ムーンはサンダーに向けて三度グラビトンボールを発射した。サンダーはスラッシュをぶつけそれを防ぎ、 「サンダーァァァ! カノン!」  電気球をムーンに向けて発射した。ムーンはそれを回避しながらサンダーに接近戦を仕掛けた。 「とぉぁ!」 「とりゃぁぁっ!」  接近戦は互いに大きなダメージを与えられず、サンダーとムーンは暗黙の了解で間合いを広げた。 「ムーン…。聞きたいことがある。」 「はぁはぁはぁ…。なんだ…。」 「確かあんた…。以前言ってたな…。  死にたくないからファイブについたって…。」 「そ、そうだ…。」 「つまりあんたのブルズ・アイからの脱走は結果として、  失敗だったってことか…。」 「それは違う! 俺はブルズ・アイの追っ手、  ゲスタ・パックやボルトやテンペストも、  その他もろもろも全部倒したんだ!  ファイブに捕まったのはただのアンラッキーっつーやつよ!」 「だけどな…。」  サンダーはサンダーノヴァの体勢に入った。ムーンもクレーターフラッシュの体勢に入る。 「結局誰かに飼われているっていう事実だけは同じだ。」 「いってんじゃねーよ!」 サンダーはノヴァをムーンはフラッシュをそれぞれ発射した。互いのエネルギーが空中で衝突し、強大な衝撃波を産み出す。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「どぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」 サンダーもムーンも空中でのエネルギーの押し合いの愚かさはよく理解しているつもりだった。しかしこうなってしまった以上、力を抜くことはできない。二人の力は、格闘能力もエネルギー出力もほぼ互角の様に思われた。 「是玖斗君!」 戦況を見守っていた陽子は背後からの声に振り向いた。彼女の視線の先にはサブマシンガンを持った北本が立っている。 「ほ、本部長。」 「由鷹君を援護したいのだが。」 「や、やめて下さい。今は危険過ぎます。」 「し、しかし…。」 「転換者同士…。ああなってしまうともう第三者の介入は  難しくなってしまいます…。そういうものなんです。」 「わ、わかった…。」 北本は仕方なく立ち尽くした。陽子は北本の意外な行動と発言内容に軽く驚いていた。 「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」 ムーンはフラッシュの出力を最大限にまで上げた。体のあちこちからは体液が噴き出ている。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 サンダーもノヴァの出力を更に上げた。しかしこちらはそれ程体に負担をかけている様子は無い。サンダーは頭部の角を震わせながら出力を上昇させた。 「それ!」  ついにフラッシュはノヴァに押し戻された。 「う、うーわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ムーンはノヴァの直撃をくらい吹き飛ばされた。数十メートル程飛ばされた挙げ句地面へと激突する。 「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  ムーンの体から煙が上がった。しかしまだ息絶えてはいない様である。 「な、なに…。」 サンダーはムーンが死んでいない事実に驚愕した。ムーンはふらつきながらも立ち上がった。 「グラビトンバリアーをとっさに張って…。せ、正解だったぜ…。」 「くっ…。ならば!」 サンダーはムーンに襲いかかった。 「サンダーァァァァァァァァァ! パァァァァァァンチ!」 サンダーの電気拳がムーンの頭部に命中した。 「ごぁぁぁぁぁぁ!」  サンダーは倒れているムーンに尋ねた。 「さぁ言え! ファイブはどこにいる!」 「い、いえるかよ。言ったら俺がファイブやシックスに  ブチ殺されちまう…。」 「…。」 「どうした! 殺らねーのか! さっさととどめを刺せよ!」 「俺は…。」 「どーした! 戦闘不能の俺じゃ殺しがいがねーのか!」 「あ、ああ…。」 「け!」 「教えろ…。ファイブはどこだ…。」 「…。」 ムーンは考えあぐねていた。 『乱め…。想像以上の化物だぜ…。  もしかしたらこいつだったらファイブやシックスを  ブチのめせるかもしれねーな…。それに…。』  ムーンは半壊した研究所の前にいる陽子を見た。 『ちっくしょう! さっきから俺に熱い視線を送るあの女は何者だ!  俺は生奈みたいに事情通じゃねーからな!  にしても、モロ俺の好みじゃねーか!  ちくしょう、ちっくしょう! ビンビンしてきやがる!』 「よ、よし…。乱!」 「なんだ…。ムーン。」 「無形だ!」 「あ、ああ無形。」 「と、取り引きしよう…。俺の条件を飲んでくれるっつーのなら、  ヒントぐらいなら教えてやる。」 「なんだ…。その条件って…。」 「そ、それは…。なに!?」  ムーンはサンダーの背後に自分にとって世の中で二番目に苦手にしている男の姿を見いだした。空間より突如として出現した男。シックスである。 「こんにちは…。サンダーくん。」 サンダーは背後を振り返った。 「だ、だれだ…。」 サンダーは直感していた。この男があのファイブと同様の気配を持っているという事実に。 「シックス…。ファイブの連れだよ。」 「な…。な…。」  サンダーはただ驚愕するばかりであった。 「ムーン。引くよ。もうじゅうぶんさ。」 「あ、あ…。」 シックスは右手をかざすとムーンに手招きをした。ムーンもそれに合わせて立ち上がる。 「ファイブの仲間だと!」 サンダーは右手のボルトを隆起させるとサンダーパンチをシックスに向け繰り出した。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 「クス…。潜航。」 しかしシックスは空間に姿を消した。電気拳は空をきり、サンダーは勢いを殺すためその場にふんばった。 「さ…。」  シックスはムーンの背後に四方に風を吹かせながら出現するとムーンの手を取った。 「バイバイサンダー。またね。」 シックスとムーンは空間に姿を消した。サンダーは呆然とその場に立ち尽くした。陽子がサンダーに駆け寄ってくる。 「由鷹くん…。今のは…。」 しかし陽子の言葉も今のサンダーの耳には届かない。陽子は仕方なく辺りを見渡した。 「…。バイクも…。ナイトファイブもいなくなってる…。」 「あ、陽子…。」 「由鷹くん…。」 「と、とんでも無いことになっちまった…。ファイブの同類だ…。  あいつ…。」  「え、ええ…。でね。」 「え?」 「ムーンだっけ…。さっきのバイクの乗り手って…。」 「ああ。」 「ムーンのバイク…先週の報告書にあったわ…。」 「どういうことだ!」 「うん…。転換者反応ケースDのライダーが乗ったバイクが…。  洋館から発進していくって報告…。  その報告だと、バイクはハーレーだったはずよ…。  で、そういった報告って一日に十件くらいあって  大抵が誤報だったから、保留にしていたんだけど…。」 「どこだ! その洋館は!」 「確か…。横浜の港北区だったかしら…。  詳しい場所は部屋に戻らないと…。」 「ありがとう!」 サンダーは陽子の肩をかるく叩くと研究所の方へと走っていった。 「あ! 待って由鷹くん!」 陽子はサンダーの後を追った。入口前にいた北本は、サンダーが自分に向って突進してくる姿を見て、いい様のない感動に見舞われた。 「そ、そうか、協力してくれるのだな!」 北本はサンダーに向けて右手を差し出した。しかしサンダーはそれを無視して北本の脇を抜け、研究所へと入って行った。 「な、なんだ! こ、こら…。」 今度は陽子が北本の脇を抜けて行った。 「ど、どういうことなんだ! これは!」 「う、うっく…。」  研究所一階の廊下で気絶していた神白はようやく意識を取り戻した。彼はエレベーターの方を見た。 「サンダー…。何だ。戦闘は終ったのか?」 陽子が神白の前で立ち止まった。 「は、班長…。その損傷は。」 「神白君! 戦闘は終ったわ。」 「は、はぁ。」 「でも兵堂君も大怪我して大変なの。ごめん!  あなたに事後処理を任せるから!」 「は、はぁ…。」  「ごめん!」  陽子は階段の方に走り去って行った。 「な、なんなんだ…。」 神白はシグメッツのバイザーを上げると立ち上がった。 サンダーは地下工房へと乱入した。 「プロフェッサー!」 県は突然のサンダーの乱入に仰天した。 「お! おおう! Aランク!」 「サンダー号かりるぜ!」 サンダーは搬入用エレベーターを地下一階に呼びながら、エレリーム号にまたがった。 「どう使う?」 「あ、ああ…。ホレ、ハンドルのスタートボタンを押せ、  予備電源でスタートする。あとは…。」  県はサンダーにマニュアルを投げた。 「それを見ろ!」 「悪い!」 サンダーはエレリーム号のエンジンをスタートさせると、マニュアル通りハンドルのガード部分に手を突っ込んだ。 「今の君は転換後だから最速猛スピードだ!」 「ああ!」 サンダーは搬入用エレベーターにエレリーム号で乗り込んだ。 「それと、着替えはシートの下に三セットあるはずだ!」 「随分と用意周到だな…。」 「軍隊時代からの習性だよ。試作でも実戦装備…。あ。」 エレベーターの扉は閉じてしまった。 「サンダー…。なんてせっかちなやつだ…。  それに何がサンダー号だ!」  言葉の内容とは裏腹に県の表情は笑っていた。サンダーとエレリーム号は一階駐車場に出た。サンダーは辺りを見渡し実戦隊員がいないことを確認した。 「人生調は…。現場処理に追われているのか…。」 バイクを発進させようとしたサンダーの前に二型のトランクを持った陽子が現れた。 「陽子さん…。」 「港北区に行くつもり?」 「ああ。」 「ならあたしも一緒にいくわ。」 陽子はそう言いながら戦闘バイクに跨ってエンジンをかけた。 「どうして!」 「当り前でしょ! 正確な場所はあたしが知ってるのよ…。  それに…。」 「そ、そうだな…。」 サンダーは、今の陽子が組織内でも微妙な立場に立たされていることを理解し、彼女の行動を納得した。エレリーム号と戦闘バイク「ユニコーン」は晴海研究所を後にした。 「なに!」  二台のバイクと見本市会場前ですれ違ったのは伊上のアコードだった。 「どーゆーこったい!」  伊上は車をスピンさせながらバイクの後を追った。彼は内生特本部に行った後、車内に搭載されているパソコンの通信情報で晴海の事件を知り、現場までやってきたのであった。 …2 「はぁ、はぁ、はぁ…。」 男は銀座地下下水道を逃げていた。全裸、抜けきった頭髪のそれは明かに転換手術を受けた者であった。 「こ、殺される…。」 男は走ることに疲れ、下水の壁に寄りかかった。やがて下水に革靴の足音が鳴り響いた。 「ひっ!」 男は必死の形相になり、足音と逆の方向に逃げ出した。 「ひっ!」  しかし男の正面に女性の人影が現れた。男は立ち止まった。尻もちをつき、ガタガタと震え出す。 「…逃げられると思っていたのか…。」 男の背後から低い声が飛んだ。 「ひ、ひひ…。」  背後からやってきた二人組の男。一人は黒いコートに赤いサングラス。手には杖を持っている。そしてもう一人の男は漁船乗組員の様な服装をしている。そして正面にいる女性はノースリーブにミニスカートというおよそ下水道にはふさわしく無い服装をしていた。 「た、たすけて!」 男はコートの男に命乞いをした。しかしサングラスの男は首を横に振った。 「だめだ…。お前は俺達の話を聞いてしまった。  それより何をしていた?」 「お、俺はただファイブ様に頼まれて、  ビルの屋上に機械をつけていただけだ!」 「これか?」 船員風の男がジャンパーのポケットから小さな機械の固まりを取り出した。コートの男が尋ねた。 「何の機械だ?」 「知らねぇ、本当に知らねぇんだよ!」 「そうか…。仕方無い…。真由」 「うん。」  男に呼ばれた女性が頷いた。女性…。弓岡真由は右手をゆっくりと上げた。 「や、やめてくれ!」 真由に命乞いをする男だったが、真由は悲しそうな顔をしてつぶやいた。 「運が無かったわね…。ごめんね…。レイザー…。フーン…。」  真由の右手から空震刀が発射された。男の体がズタズタになり絶命する。 「…。」 真由は右手の小指をぺろりと嘗めた。 「行くぞ。真由、祝井。」 「ええ。」 「わかった竜。」  真唯と船員風の男…。祝井十蔵はサングラスの男…。竜に返事をした。二人と男と一人の女は下水道を後にした。 竜は生きていた。そして「Aランク・ウインドー」弓岡真由も 「Bランク・ドーベル」祝井十蔵も…。どうやって? そして彼等の目的は? 第十二話「対決! サンダー対ムーン」おわり