第八話「時代乱九郎の最後!ブルズ・アイ壊滅! …そして」 …1  夏彦との死闘を終えた直後…。由鷹は全裸のまま、都庁中央広場に蹲っていた。その脇には夏彦の衣類のみが散乱している。 「ここにいたのか…。」  コート姿の竜が広場にやってきた。 「…。」  由鷹は無言で蹲ったままである。竜はチェリーをくわえると、それに火をつけた。 「めぐる君はおれが葬った。 …吸うか?」  竜は由鷹にチェリーを差し出した。しかし由鷹は首を横に振った。 「陽子君は高輪へ向かった。」 「?」 「構成員の大半がそこで作戦準備をしているって情報が、  神白って男から入ってな…。さてどうする?  政府の残党の大半もそっちに向かったらしいが。」 「…。」 「由鷹君。まさかここで時を過ごす訳じゃないだろうな…。」  竜はそう言うと、由鷹の脇を見た。 「そうか…。細胞が崩壊したのか…。」 「ええ…。」  竜は着替えを出すと、由鷹の脇に置いた。 「竜さん。」 「ん…。」 「俺、これから平内島へ向かいます。」  その由鷹の台詞に、竜は不自然なまでに動揺した。 「そ、そうか…。」  由鷹は着替えると立ち上がった。 「竜さんは、どうするんです? 大半の化物が東京にいる以上、  今しか時代を倒すチャンスはないと思いますが…。」 「そ、そうだな…。俺も一緒に行こう。」  由鷹は気弱に微笑むと、歩き出した。竜も由鷹の後をついていく。 『ついにその気になったか…。由鷹!』  竜は悪辣な笑みを浮かべた。 …2  由鷹と竜は、荒川土手で手ごろなモーターボートを手に入れると、燃料と食料を積み込み平内新島に向かった。由鷹と竜は、この間必要最低限度以上の言葉を交さなかった。 『確かに…。竜さんは何かを企んでいる。』  平内新島に乗り込むと由鷹が言って以来、竜はそれまで以上に積極的に行動する様になっていた。 『そう言えば…。大井埠頭を襲撃した時も、  竜さんはこんな感じだったな…。』  あれこれと思案しながら、ボートを運転する由鷹だった。そこに、キャビンから竜が操縦席まで上がってきた。 「どうした由鷹君。元気が無いようだが…。」 「い、いえ…。  めぐるの顔を、もう一度見ておきたかったなって…。」  これは嘘ではない、由鷹の本心でもある。 「そうか…。」 「竜さん…。」 「ん?」 「早く…。終わらせましょう…。こんなこと。」 「ああ…。その通りだ。俺と君でケリを付けよう。」 「島まで近づいたら、どうします?」 「おそらく数キロ先から相手のレーダーにキャッチされるだろう。  ボートも破壊される…。  そうしたら泳いで上陸して、地下基地へ向かおう。」 「時代のいる場所の見当は?」 「自室にいるだろうが…。俺達の上陸を知ったら移動するだろう。  うまく見付け出すしかない。」 「相手はどんな手できますかね…。」 「トリプルAが迎撃の中心になるな。  それに本拠地にもまだ相当数の転換者がいるはずだ。」 「なるほど…。」 「トリプルAは、できれば君に任せたいんだか。」 「ええ、構いませんよ。」  由鷹の返事はね何故か素っ気ないものであった。 「あと…。是玖斗君にはさっき連絡を取っておいたが。」 「そ、そうですか。」 「高輪の件のケリがつき次第、こちらに向かうそうだ。」 「東京にはどの程度の敵が残っているんでしょうか?」 「さぁな…。ハイランクの転換者は俺達が大半を始末した…。  後は是玖斗君たち次第だろう…。くっ。」  竜は身体のバランスを崩すと、その場に座り込んだ。由鷹はボートを止めると、竜の上半身を支えた。 「だ、大丈夫ですか…?」 「あ、ああ…。」 「ただの…。ただの怪我じゃありませんね。」 「い、いや…。何でもない。ベッドで横になってくる。  島が見えたら起こしてくれ。」 「え、ええ…。」  竜は操縦席からキャビンへと降りた。 『竜さんはノーランク…。俺の実験体だったっていうけど…。』  そんなことを考えながら、由鷹は操縦席についた。 …3  ブルズアイ本拠地会議室では緊急会議が開かれていた。議題は由鷹達に大半のBランカーを倒されてしまったことからくる、サンライズ作戦の変更点についてである。 「モーターボートが接近中だと?」  会議に出席していた時代は、接近者の報告を受けた。 「どうするかなファイブ君。」 「ドーベル・イワイにでも処理させましょう。」 「うむ…。」  ファイブはインターホンを手に取ると、ドーベルに砲撃指示を出した。 「政府にかぎ付けられましたかね。」  幹部の一人が時代に尋ねた。 「だとしても仕方ないだろう。この新島を買い上げた時点で、  完璧なカモフラージュなど出来ないのだからな。」  別の幹部が時代に代わってそう返事をした。 「だとすれば、政府なり…。連合軍の攻撃もあるのでしょうか?」  連合軍とは自衛隊と米軍のことであった。その不安にファイブが答えた。 「それは無いでしょう。連中も無能ではありません。  ここに攻撃を仕掛けることが、自分達にとってどのような  結果をもたらすのか…。  連中も本土を空けることは出来ないでしょう。」  ファイブのその言葉に、幹部達は安堵のため息を漏らした。だが、一人だけ意図的に咳払いをする者がいた。「トリプルA」リーダー。ファイヤーこと源翔史南である。 「どうしました? ファイヤーどの。」 「たしかにファイブどのがおっしゃる様に、  政府なり米軍なりは我々の対処に慎重をきするでしょう。  なにせ我々は、連中に何ら交渉ごとをもちかけていない。  連中にとっては、我々は未知の存在なのですからな。」  源翔の言葉に、時代が反応した。 「そうだ、国民に対して強烈なる衝撃を、  現行政府には壊滅的打撃を与える。交渉の余地など与えん。  しかし年を越せば事態を終息の方向に向かわせるつもりだ。」  源翔は時代の言葉に頷いた。ファイブは表情を変えることなく、源翔に尋ねた。 「ファイヤーどの。話が横道にそれましたが、  何をおっしゃりたかったのですか?」 「うむ…。政府との関連無き者が、この基地に侵攻してきたら…。  さてどうしたものかと。」  源翔の懸念を一人の幹部が笑いとばした。 「くっくっくっ…。そんな存在、踏みつぶしてしまえば  よいでしょう。後ろ楯なき力など、取るに足りませんよ。」 「しかしその存在が無視できない者であったら?  強大な力を持つ個人であったら?」  源翔のその言葉に、会議室はざわめき立った。それを制するがごとく、ファイブが席から立ち上がった。 「サンダーのことですか?」 「まぁそうだが…。」  源翔は目を伏せ、そう答えた。 「もし今接近しているボートに、サンダーなりプロトなりが  乗っているのならば好都合。守備隊、トリプルA、  もてる兵力の全てを使い、連中を葬ればいいでしょう。」  ファイブのその言葉に、幹部の一人が弱々しく発言した。 「し、しかし…。サンダーはすでに、  相当パワーアップしていると聞いていますが…。」 「不安とあれば、私自らが出撃しましょう。」  ファイブは彼らしくもなく、自信に満ちた口調で語った。この発言に、源翔は戸惑いを感じた。 『この男…。何を焦っているんだ?』  会議はほどなく終了し、源翔は部下の待つ娯楽室に戻った。 「リーダー。」  ウオーターこと池山弘貴が挨拶をした。バーカウンターにはウインドこと弓岡真由もいた。 「真由、帰ってきていたのか。」 「ええ、三時間ほど前にね…。東峰夏彦が死んだわ。」 「そうか。」  源翔はカウンターにつくと、バーテンに生ビールを注文した。 「東京はかなりまずいみたい。  アンダーランカー達もビクつき出しているわ。  暗殺者、サンダーに」 「ここにも敵が接近しつつある。おそらく、そのサンダーだ。」  源翔の言葉に、弘貴が反応した。 「サンダーが? どうして今更?」 「さあな。心境の変化じゃないのかな?」  真由は源翔と弘貴のやりとりを黙って聞いていた。 「で、リーダー。どうする、俺達は?」 「当然迎撃にあたる。いま祝井が砲撃をしているが、奴のことだ、  泳いででも上陸するだろう。」  真由が源翔の言葉に頷いた。 「だろうね…。」 「そうか…。ついにサンダーとケリがつけられるか!」 「嬉しそうだね、弘貴。」 「ああ、まぁな。」 「おそらく…。竜も来ているぞ。」 「え…?」  源翔の言葉に、真由は身体ごと反応した。 「真由、竜とのことは知っている。俺もな。」 「…大丈夫だよ。源翔、裏切られた恨みは、死で償ってもらう。」 「うむ…。」  弘貴が、娯楽室の扉をゆっくりと開いた。 「では、そろそろ行きましょうか。」 「うむ。」  トリプルAは娯楽室を後にした。  その頃、ファイブは自室に戻っていた。 『そろそろ潮時か…。サンダーの戦闘力は飛躍的に向上している。  おそらく源翔達でもかなうまい…。』  ファイブは棚からグラスとブランデーのボトルを取り出した。 『サンダー…。あれを作るのが早すぎた…。俺の失敗か?』  ファイブがグラスにブランデーを注ぎ込むその瞬間、どあのも開けず、物音もさせず、彼の背後に一人の青年が現われた。しかし、ファイブはそれに動じることなく、ブランデーを注いだ。 「シックスか?」 「ああ…。そうだよ。」 「そっちの方はどうなんだ?」 「こっちは終わったよ。思ったより手間取ったけどね。」 「な…?」  シックスのその言葉に、ファイブの手元が震えた。グラスからブランデーが数滴こぼれ落ちる。 「それよりファイブの方はどうなんだい? 随分大変そうだけど。」 「下手をすると…。始めからやり直さなければならんかもな。」 「…だから僕が言ったように、一人でやればよかったんだよ。  時代なんて人間を立てないでさ。」 「どうやろうと俺の自由だ。」 「あはは…。」  シックスは背後からファイブの両肩を掴んだ。 「そうだったね…。ごめん。」 「いや…。」 「でも…。変だね。あの最強のAランクはどうしたの?  サンダーだったっけ?」 「あいつには裏切られたよ…。」 「ふーん。だったらすぐに始末しちゃえばよかったのに。」 「今はそう思うよ。  だが当時はそれ程重要な問題だとは思わなかった。」 「またゲームをやろうとしたんだ…。」 「…。」 「悪い癖だよ。」 「シックス。俺はお前の様に、冷徹にはなりきれん。」 「人間の可能性?」 「ああ、時々そいつが俺を滅ぼしてくれたらと思うこともある。」  シックスは素早くファイブの前に回ると、右手を振り上げた。しかしファイブもそれ以上の素早さでシックスの手を掴んだ。美貌の青年はファイブに凶暴な眼光をぶつけた。 「なに弱気になってるんだよ! 楽園を作ろうって言ったのは、  あんたじゃないか!」 「あ…。す、すまない…。」 「ファイブ…。僕やセブン、エイトがナンバーズから抜けたのは、  貴方の理想に協力するためなんだよ。」 「わかってる…。」 「ごめん…。怒ったりして…。」  シックスの殺気が消えたのを認めると、ファイブは彼から手を離した。 「…俺ももっと強くなりたいものだ。」 「貴方は強い人だよ…。でも…。  サンダーって所詮はフェノメーヌでしょ?  どうしてそんなのが、ここまで貴方を追い詰めるの?」 「サンダーはただのフェノメーヌでは無い…。  改造時にリアントルを打ち込んである。」  ファイブのその言葉に、シックスは恐怖した。 「リ、リアントル…。次元砕遠細胞を…。」 「そうだ、だからサンダーはただのランカーではない。」 「で、でも…。よく成功したね。さすがはファイブだ。」 「そのために、実験体を多く消費したがね。」 「実験体にもリアントルを打ち込んだの?」 「ああ、疑似ナンバーズは多いにこした事がないからな。  だが大半が拒絶反応のために死亡したよ。」 「こわいこわい…。」  シックスは微笑むと、両手でファイブの長い髪をかき乱した。 …4  モーターボートのキャビンで竜は目を覚ました。 『だめだ…。身体がもたん。閃光できてもあと一回が限度だろう。  早く逆手術を受けなければ…。』  ベッドから起き上がると、竜は操縦席に上がった。 「どうだ由鷹君、島は?」 「ええ、あれです。」  由鷹は正面を指差した。竜は目をこらした。 「あれか…。」  夜の闇の向こうに平内新島が見えた。 「…。」  由鷹と竜は顔を見合わせた。 『あそこから…。全てが始まったんだ。』  そのとき、島から一条の加粒子が発射され、それがボートをかすめた。 「祝井か!」  竜は舌打ちをした。 「どうします! 迂回しますか!」 「いや、このままだ! 命中次第、海に逃れるぞ!」  二発目の加粒子がボートを直撃した。それと同時に由鷹と竜は海に飛び込んだ。 「いくぞ、由鷹君!」 「はい!」  由鷹と竜は泳ぎ出した。一方、港から砲撃を敢行したドーベルは、肩で息をしていた。 「何者だ…。あのボート…。政府の物じゃなかったが…。」  しばらく泳いだ後、由鷹と竜は平内新島への上陸を果たした。 「これからどうします? 竜さん!」 「基地の入口は二箇所ある、手分けしよう!」 「はい!」  由鷹と竜は基地目がけ駆け出した。地下基地への侵入ルートはいくつかあるのだが、二人はそのうち二箇所を覚えていた。二人は二手に別れた。 「ここは倉庫入口か…。」  竜は入口手前までやってきていた。その背後から、低出力の粒子が竜に襲いかかった。彼は跳躍でそれを回避すると、振り向き様に着地した。 「祝井…。か…。」  竜の眼前にはドーベルと三名のゲスタパックが身構えていた。 「竜、決着を付けるぞ!」  ドーベルは叫ぶと、右手でゲスタパックに指示を出した。ゲスタパックはそれぞれナイフを構えると、竜に襲いかかった。 「くそ!」  竜は背後の扉を力任せに破壊すると、地下基地内部へと降りていった。 「逃がすか!」  ゲスタパック達とドーベルは竜の後を追った。逃げながら、竜は考えた。 『閃光はできん…。もう一回閃光したら、それで…。  その前に人間に戻らねば…!』 …5  由鷹は正面入口へ向かっていた。しかし入口前には転換前のトリプルA達が待ちかまえている。彼等は一様に無表情であり、由鷹にとってはそれが不気味でならなかった。そして、意を決した由鷹は、トリプルAの前に踊り出た。 「来たな、乱由鷹…。」  弘貴はそう言うと不敵な笑みを浮かべた。 「作戦も上手くいってる様じゃないか、トリプルA!」  由鷹は自分自身が信じられなかった。まさかこの状況で、こんな不敵な台詞が言えるとは…。 「おかげさまでなサンダー!  だが貴様が東京支部を壊滅させなかったら、  もっと早く進行したんだがな!」  弘貴を源翔が片手で制した。 「おしゃべりが過ぎるぞ、弘貴…。」  入口に寄りかかっていた真由が軽く腰を上げた。 「サンダー…。あなた何をしに来たの?」 「決まってるだろう…。時代乱九郎を倒し、 ブルズ・アイを滅ぼす!」 「脳天気だこと…。あなた本気?」 「本気さ…。」 「一人で乗り込んで来たの?」 「だったら…?」 「竜は一緒じゃないのって聞いているのよ!」 「一緒さ! 別行動だからな!」  真由の注意が別方向に向いた、彼女は竜の気配をさぐり始めた。 「なんだ…。あんたは竜さんと何かあったのか。」 「そうだ! 奴はわたしを裏切って脱走した!」  逆上する真由を、弘貴が制した。 「やめろ真由!」 「うるさい弘貴! わたしはね…。竜に復讐をしてやるんだ…。  フン…。その前にサンダー。貴様を倒す。」 「ふん…。」  源翔が一歩前へ出た。 「我々はブルズ・アイより禄をはむ者。  ブルズ・アイの利益を守るのがその職務…。」  源翔の時代劇めいた言い回しに由鷹は閉口した。 「…。」 「乱由鷹…。  貴様が我らブルズ・アイの活動を邪魔だてするとあれば、  我々も容赦はせん! それでも立ち向かうかっ!」 「これが俺の返事だ…。」  由鷹は身体中の殺気を急激に上昇させた。 「閃光!」  乱由鷹は、異形の超人「Aランクサンダー」に転換した。 「燃焼!」 「風来!」 「水震!」  トリプルAは、それぞれのバトルフォームに転換すると、サンダー目がけて突進した。 「バーニングカノン!」 「レイザーフーン!」 「シーマッド!」  三人は、それぞれの必殺技をサンダーに仕掛けた。 「プロテクト!」  サンダーは電気膜でそれぞれの攻撃を防御した。しかし攻撃のダメージは苛烈であり、サンダーとて無傷では済まなかった。 「いける! リーダー!」  ウオーターは、自分が尊敬する唯一の男に向かって叫んだ。ファイヤーは頷くと、再びバーニングカノンの構えをとった。 「いくぞ!」 「おう!」  ウインドとウオーターはリーダーの呼びかけに追うじ、空震波と水流波の発射体勢を取った。 「ラスト!」  ファイヤーが火炎を発射した。 「トライ!」  ウインドが空震波を発射した。 「アングル!」  ウオーターが水流波を発射した。それぞれのタイミングは絶妙であり、サンダーの回避は不可能であった。そう、サンダーは回避する挙動すら見せなかった。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」  サンダーは全身に力を込めた。その瞬間、ラストトライアングルがサンダーを直撃した。その破壊力は凄まじく、サンダーの眼前にあった地下基地へのゲートをも破壊した。爆煙が立ちこめる中、トリプルAのシルエットがうっすらと浮かび上がる。 「はぁはぁはぁ…。決まったな。」  ウオーターがウインドを見上げ、そう言った。 「え、ええ…。」  ウインドは冷静に頷いた。しかしファイヤーだけは事態の絶望的な変化を誰よりも早く察知した。 「な、なに…。」  爆煙が風と共に吹き去った。そして、その中より仁王立ちするサンダーの姿が現われた。身体のいたる箇所に裂傷を負っているものの、いまだ健在である。 「これで終わりか…。トリプルA…。  大井埠頭のときと、大してかわっちゃいないが…。」  サンダーは体の力をゆっくりと抜いた。微弱な放電が彼の全身を包む。 「サ、サンダー…。」  ファイヤーは心の底から恐怖心を抱いた。 『サンダー…。乱由鷹は明かに成長している…。  だが違う、それだけでは無い…。この男は俺達とは違う…。』  サンダーは、トリプルA目がけて突進した。ウオーターが水流波を発射したが、さんだーのはそれをかわし、水流発射口であるウオーターの背中にサンダーパンチを打ちつけた。 「ウベャャャャャャャャャャャャャ!」  ウオーターは感電により絶命した。サンダーは拳を引き抜くと、サンダースラッシュとカノンを同時にウインド目がけて発射した。命中した電気球と電気槍がウインドの身体を空中に放り上げ、彼女は無残にも地面に激突した。 「き…。鬼神…。」  ファイヤーは低くうめいた。サンダーのこれほどまでのパワーアップを、彼自信予想していなかったからだ。しかし彼は自分の職務を投げ出すことなく、バーニングカノンの体勢に入った。それも予混炎の圧縮率を最大限にまで計算した、超高熱火炎である。 「バーニングカノン!」  サンダーもすかさず、サンダーノヴァの体勢に入った。 「サンダーノヴァァァァァァァァァァァァァ!」  電気嵐は火炎を四散させ、ファイヤーに直撃した。 「う、うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  ファイヤーは敗北の原因も納得できないまま力尽き、転換を解いた。サンダーは瀕死の源翔にゆっくりと歩み寄った。 「わ、私の負けだ…。乱由鷹…。」 「すみません…。」 「フ…。こんな若僧に負けるとはな…。」  源翔は息絶えた。 「…。」  サンダーは泣きたくなった。だが決心をすると、彼は地下基地へと侵入した。基地内には大量の転換者が待ち構えてていたものの、サンダーはそれらを無感情に葬った。 「ここは…。倉庫か…?」  辺りにコンテナが立ち並ぶ、ここは倉庫であった。人気が無いことを認めると、サンダーはその場から立ち去ろうとした。しかし、彼の足が止まった。奥から人間のうめき声が聞こえてきたからだ。サンダーは声の方向に向かった。 「じ、陣八…。」  サンダーの目前には、変り果てた陣八の姿があった。上半身は裸であり、その身体には無数の仕置きの後が残っていた。両手はチェーンで縛られ、そのチェーンは天井に伸びていた。サンダーはチェーンをねじ切ると、陣八を自由にした。だが、彼はその場に崩れ落ちた。 「サ、サンダー…。」 「みじめな姿だな、陣八さん…。」 「くっ…。貴様が…。貴様さえいなければこんな姿にはならん。」 「作戦失敗の責任取りか? 時代にでもやられたのか?」 「違う! 時代様はこのようなことを部下にする御方ではない!」  叫んだ後、陣八は吐血した。 「だったら…。」 「転換者どもにやられた…。ハラいせにな…。惨めなものだ…。」 「普段からいばりちらしていたからな…。  しかしこうなると放っておけないな…。」 「お、俺にかまうな…。化物の情けなど…。受けん!」  陣八は再び吐血すると倒れ込んでしまった。サンダーが陣八に近寄る。 「俺に近寄るなァ! 触るんじゃねぇ!」  陣八は体を奇妙にピクピクと震わせ始めた。 「だから…。俺は反対だったんだ…。化物なんて…。」 陣八は死んだ。 「陣八…。」  サンダーは倉庫を後にした。 …6  ドーベル達を何とか引き離した竜は、生体転換実験室を目指した。 『ここで逆手術をするのは無理だとしても…。  その方法だけでも入手できれば…。  あとは是玖斗辺りを利用すれば、どうにかなるはずだ。』  幸い、サンダーとトリプルAの戦闘によって、竜の存在に関心を払う者は、ドーベル達を除いて皆無であった。通路を走る竜は、途中地震のため、足を止めた。 「衝撃による振動…。由鷹の奴か…?」  竜はサンダーの気配を察知するために、軽く意識を集中した。 「なに…?」  サンダーの気配を意外なほど近くに察知したため、竜は戸惑った。すると、彼の右手の通路から、ギロスティンんが上半身を吹き飛ばされてきた。 「…。」  竜は息を飲んだ。通路の角からサンダーが姿を現わした。 「ゆ、由鷹君。」 「竜さん…。トリプルAは倒しました…。」 「そ、そうか…。」 「時代はともかくとして…。この基地は爆破しますか?」 「当然だ…。だが時代は俺達の手で始末したい…。そうだな。」 「ええ。」 「とすれば爆破は最後だ。トリプルAを倒した以上、  もう俺達を止められる者などいない。」  二人が話していると、再び地震がおこった。 「何でしょう?」 「わからん…。ひょっとしたら本物の地震かもしれんな…。」 「時代の部屋へ急ぎましょう。」 「ああ、そうだな…。」 「どうしたんです? 竜さん。」 「いや、何でもない…。」 「どうしてプロト・サンダーにならないんですか?」 「体の調子が悪くてな…。  上手く閃光できる自信が無いんだ。」 「そ、そうだったんですか…。」 「なに…。足でまといにはならんよ…。」 「…。」 「大丈夫だ、さ、急ごう!」 「は、はい。」  サンダーと竜は時代の部屋へ向けて走った。走りながら竜は考えた。 『データを入手するのは後でもいい…。  気がかりなのはこの地震だ…。』 …7  是玖斗陽子は平内新島の沿岸付近まで、沿岸警備艇で接近していた。由鷹が夏彦との決着をつけるため小屋から出た後、彼女のもとには神白より高輪プリンスホテルにブルズ・アイ構成員が集結しているとの情報がもたらされた。陽子は悩んだ末神白と合流した。もと人生調メンバーと自衛隊の合同部隊はホテルを襲撃し、多大な損害を被りながらもホテルの奪回に成功した。 『あのホテルにはCランク程度の転換者しかいなかった…。  ブルズ・アイももう戦力切れなのかしら…。  そうよね、考えてみれば、一線級の転換者は、  由鷹くんが始末しちゃったものね…。』  陽子はホテルの転換者を掃討したのち、竜の連絡にあった平内新島に向かうべく、現場を神白に任せこの沿岸警備艇に乗り込んでいた。 「是玖斗さん、島が見えましたが。」  監視隊員の報告を受け、陽子は双眼鏡で平内新島を捉えた。 「砲撃準備。」  この警備艇には、対ブルズアイ用の急造装備として迫撃砲が五門取り付けられていた。陽子の指示により、自衛隊員が迫撃砲に砲弾を装填した。 …8 「いるとは思えんがな…。」  サンダーと竜は時代の部屋の付近までやってきた。 「とにかく部屋まで行きましょう…。」  時代の部屋の前へ行こうとしたその時、サンダーと竜は背後に敵の気配を感じた。 「誰だ! まだ死にたい奴がいるのか!」  サンダーは攻撃体勢のまま振り向いた。竜もそれにならう。 「ひさしぶりだな…。サンダー達よ…。」  気配の主はファイブである。しかしいつものファイブとは違い、他の構成員同様に革の戦闘服を着込んでいる。 「ファイブ…。」  竜はチャンスが来たと直感した。 「由鷹君。君はこのまま時代の部屋へ行け!」 「で、でも…。」 「この男は俺が食い止める!」 「…。」 「早くしろ! 時代にとってのガードマン、  ファイブがここにいるということは、  奴自身まだこの基地にいるはずだ!」 「わ、わかりました。」  サンダーは、警戒しながら時代の部屋へと向かった。竜が右手を前に突きだし、左手を顔面横に据え、身構える。 『こいつを上手くまいて研究室からデーターを盗み出す。  そしてこの島から脱出すれば全ては終る…。』  竜はファイブの力について、全く知識がなかった。ただ気配から転換者でないことはわかるので、ファイブ自身の戦闘能力については転換前の自分以下だと判断していた。 「ファイブよ、随分と派手なスタイルだな…。」 「プロト・サンダーNO3か…。  実験体がよくぞ今まで生きていたものだ…。」 「ふふん…。もうそれほど長くはないがな…。」 「逆転換のデータが目当てか…?  それでサンダーに協力したのか?」 「そうだ、奴と俺は利害が一致していたからな。」 「無駄な努力を…。」 「!」  余裕のファイブに竜がなぐりかかった。転換していなくともCランク程度の格闘能力を持つ彼である。しかし、ファイブは回避の挙動すら見せなかった。 「なに?」  拳が当たったと思った瞬間、ファイブの姿はその場から消滅した。 「き、消えた…?」 「ここだ。」  ファイブは四方に風を散らせながら、竜の背後に出現した。 「読みが外れたな。プロト・サンダーNO3。」  竜はファイブの右手に頭を鷲掴みにされた。 「次元潜航!」  その叫びと共に、ファイブと竜の姿が通路から消えた。  一方、サンダーは時代の部屋、その扉の前に立った。すると扉は何の緊張感もなく、自動に開いた。 「なに…?」  サンダーは呆気に取られた。部屋の奥では時代が悠然と椅子に腰掛けてサンダーを見つめていた。 「時代…。」 「…。安心したまえ、罠など仕掛けてはおらん。」 サンダーは部屋へと入った。ドアが閉まる。サンダーは時代に近づいていった。 時代は穏やかな表情でサンダーに語りかけた。 「お帰り、サンダー。」 「お、お帰りだと…。」 「そうだ、君は我々の手によって産み出された超人。  サンダーじゃないか。その君が私の前に久しぶりに現れたんだ。  このあいさつは当然だろう?」 「時代乱九郎。俺は貴様を殺しに…。  そしてこのブルズ・アイを潰しにきたんだ。なぜ逃げない?」 「逃げる必要がないからだ。サンダー。  君には私を殺すことはできない。」 「ふ、ふざけやがって…。  この後に及んでまだ切札でもあるっていうのか?」 「そんな物は何も無い…。サンライズ作戦も失敗に終ったよ。  おそらくもう暫くすれば、  現行政府の低能どもがこの島へ殺到するだろう。  全て君の力によるものだ。  君が我々の同志を殺さなければ計画は順調に終了し、  日本の実権は私が握っていた だろう。」 「だったらどうして俺をそんな目でみれるんだ…。」 「言ったろう。君は我々の手によって産み出されたと…。  我々…。すなわちブルズ・アイの体現者はこの私だ。  つまり君の行動も全て私の責任ということとなる…。  自分自身を恨みこそすれ、  君に対してはなんの悪意も抱いてはいない。」 「ふざけるな! 俺は乱由鷹だ!  貴様達などに産み出された訳ではない!」 「そういう考え方もできるが…。  君がここまで来れたのも、サンダーの力あってのこと  だったんじゃないのか?  もし君が転換手術を受けていなかったら。  君はサンライズ作戦によって、  殺されていたのかもしれないのだよ。」 「それは違う!」 「どう違う?」  しかし由鷹に明確な言葉は無かった。 「…。」 「なぁサンダー君。作戦は失敗に終ったが、  まだ再起のチャンスはいくらでもある。  それにこの作戦により国民に与えたショックは大きい。  このショックは彼等に何かを気づかせることになるだろう。」 「き、気づかせる…。だと?」 「そうだ。現行政府はこの混乱に対し戒厳令をもって対処した。  そのため死んでしまった人々も数多くいるだろう。」 「何が言いたいんだ? 時代!」 「彼等は一様に現行政府に対して不信感を抱いていた…。  そしてそれは決定的となった。」 「それは違うな時代。あんたらの計画は失敗に終った。  政府は勝ったんだあんたらに、誰だって負けた奴の理屈なんて  信用しない! お前のやったことはかえって皆を結束させた!」 「サンダーよ、君はまだ若い。衝撃は人間をかえる。  そして衝撃による感情を正しい方向に導くのが  我々の使命なのだ…。  私も、君も。本土に行って理解しただろう?  現行政府はもう老害をまき散らすのみだ…。  誰かが討ち滅ぼし、国民に行政の心髄を  しらしめなければならない!  そしてそのためには君の協力が必要なのだ!」  時代はいつもの興奮状態に陥っていた。 「わかったぞ…。時代…。お前は言葉で俺に闘いを…。」 「そうだ! 私は自分の体にあえて改造を加えなかった!  なぜだと思う? 私は力を行動と理論で統治することに  至上の価値を見いだしたからだ! したがって私を殺しに来た君に  対しても私は弁舌を持って対抗する!」 「行動と理論だと…。」 「そうだ! そして私の理論を実践するために君達がいる!  未来の発展の為に! 世界に誇れる日本を再生するために!  破壊は必要であり、  混乱は後の必然として語り継がれるであろう!」  サンダーの怒りは頂点に達した。 「必然だと…。」  右手に電気を込めると、異形の超人は時代の腹部にそれを打ち込んだ。 「ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」 「めぐるを殺しておいて、何が未来だ!  夏彦もそんなために死んだわけじゃない…!」 「ば、ばかな…。個人の感情で…。私を…。殺すなど…。」 「ああ! テロかも知れない!  だが俺はこの島を脱出した日から、復讐者となっていたんだ!」 「復讐…。」  時代の表情が穏やかなものへと戻った。サンダーは拳を引き抜いた。 「そうか…。そうかもしれん…。  私も単なる復讐者だったのかもしれないな…。あの夏の…。  あの闘争の…。」 「じ、時代…。」 「人の…。行動の源など…。結局は…。大儀などではなく…。  復讐と野望と…。劣等感からくるものなのかもな…。」  時代乱九郎の体から力が抜け、彼は死んだ。 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…。」  サンダーは時代を椅子に座り直させると、部屋を後にした。  空間から消滅しファイブと竜は、基地の動力室に突如出現した。 「うぉう?」  竜は身体を覆っていた不愉快な浮遊感が消えるのを認めた。嘔吐感が込み上げてくるのをこらえながら、竜は戦闘態勢をとった。 「どこだ! ファイブ!」 「ここだ。」  ファイブは竜の正面に出現した。 「き、貴様…。何者だ…!?」 「俺はファイブ…。」 『殺される…。賭けるしかないか…!』 「こい、プロト・サンダー…。」  竜は全身から殺気を放った。 「閃光!」  竜はプロトサンダーに転換すると、サンダーカノンの構えを取った。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  彼にとっては最大級の発電量である。しかしファイブはそれに対し、身構えることすらしなかった。 …9  時代の部屋から通路に出たサンダーは転換を解き、潜入経路に隠してあった替えの服に着替えた。 「竜さんと、ファイブは…?」  由鷹は、背後から共鳴反応を感じた。 「動力室…?」  動力室の中へと、由鷹は侵入していった。そこには全裸の竜が、血の泥濘の中に横たわっていた。 「竜さん!」  由鷹は竜に駆け寄って、その上体を抱えおこした。 「ゆ、由鷹君か…。」  竜のダメージは致命傷である。もう助かり様は無い。 「ま、負けたよ…。ファイブに…。」 「…。」 「な、情けない話だ…。本来はお前をけしかけて目的を…。  うっ。」 「竜さん!」 「くっくっくっ…。俺はもう…。助からん…。」 「ばか言うなよ…。貴方が死んだら…。俺は…。  俺は一人になっちまう…。」 「そういうなって…。楽にさせて…。くれよ…。しがらみはもう…。  たくさん…。だ…。」 「竜さん! 竜!」 「もう少しやりたいこともあったんだが…。な…。  計算は外れっぱなしだ…。」  そのとき、エンジンの一つが小爆発を起こした。爆風が由鷹の背中を通りすぎる。 「色々…。力になってもらったな…。お前にも…。」 「りゅ、竜さんがいたから…。  俺は生き延びることができたんだ…。」 「そ、そうか…。役に立てたか…。良かった…。」  竜の体が急激に冷たくなっていった。 「竜…。」  由鷹はうめいた。 「脱出…。しよう…。動力室がこれじゃ…。  この基地も爆発する…。」  由鷹は放心状態のまま、階段を上がり地上に出た。小高い丘まで登り港を見ると、警備艇が停泊しているのが見えた。 「ん…?」  由鷹は港に目をこらした。そこでは、ハルメッツが転換者と闘っていた。 「よ、陽子!」  由鷹は港に向かって駆け出そうとした。しかし、彼の正面にファイブが出現した。 「サンダー…。」 「ファイブ!」 「数カ月ぶりだな…。お前とこうして対面するのも。」 「ファイブ…。よくも…。よくも竜を…。」 「ふん…。あれは馬鹿な男だ。実験体だと言うのに…。  逆改造を目指したの だからな…。」 「逆改造…?」 「そうだ、人間に戻る為のな。  しかしAランク以外の転換者は、  復列細胞を消去することは出来ん…。だから馬鹿な男だ。」 「ファイブ…。貴様…。」 「俺と殺り合うか? サンダー…。」 「ああ! この際身辺整理はつけておきたいんでな!」 「…。」  由鷹は跳躍してファイブに蹴りかかった。竜同様、転換前の由鷹も相当の戦闘力を持っている。しかしファイブは由鷹の蹴りを片手で受け止め、それを払った。 「サンダー…。貴様も馬鹿な男か…?  見かけで私の力を判断すると、竜の様になるぞ。」  由鷹は立ち上がりつつ、以前めぐるの家で拷問にかけたコンバットマンの言葉を思い出した。 「貴様…。そうか…。以前Aランクは五人と聞いていたが…。  ファイブ! 貴様が最後のAランクか!?」 「ムーンのことか? 違うな。俺はランカーなどではない。  そう…。以前はナンバーズと呼ばれていたがな…。」 「ナンバーズ…?」 「そうだ。ナンバーズはA、B、Cなどのランカーを  遥かに超えた存在だ。」 「…ファイブ…。五…。」 「カンがいいな…。サンダー。」  あくまでも冷静なファイブに由鷹は恐怖を感じた。 「人間…。なのか…。貴様は…。」 「ああ人間だ。ただ、お前達とは多少違うが…。」 「ふん…。貴様が誰であろうと…。」  由鷹は全身に力を込めた。 「閃光!」  サンダーは転換と同時にサンダースラッシュを乱射した。ファイブは、両腕をクロスさせるとその電気槍を全て防御した。 「な、なんだと…。」 「この程度か…。サンダー。」 「く、くそっ!」  サンダーは跳躍すると上空で力をため込んだ。 「サンダァァァァァァァァァァァァノアヴァァァァァァァァ!」  サンダーノヴァがファイブに襲いかかった。サンダーは着地すると息を整えた。 「い、いくら何でも…。この直撃で無傷なはずは…。」  しかし、ファイブは無傷のまま、ノヴァの直撃地点に立っていた。 「う、うそだろ…。」 「フ…。今のがお前の必殺技か…。」 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」  サンダーは肉弾戦をファイブに仕掛けた。しかしファイブはサンダーの拳も蹴りも、ことごとく見事な体術で受け流した。 『格闘技術も…。俺より上か…!』  ファイブの戦闘力に恐怖したサンダーは跳躍によって後退した。 「では…。今度は私の攻撃を受けてもらおう。」  ファイブの右手からプラズマ光が生じた。 「プラズマトリッガー…。」  プラズマは球状に変化し、サンダー目がけて襲いかかった。電気膜でこれを防いだサンダーだったが、圧力により吹き飛ばされた。 「ほう、これを防御するとはな…。だが、これはどうだ? 潜航!」  ファイブの姿がサンダーの眼前から消えた。そして四方に風を散らせながら、彼はサンダーの背後に出現した。 「プラズマ・プレッシャー!」  ファイブは両の拳からプラズマを発生させると、サンダーの背面にそれを叩きつけた。サンダーは不意討ちをくらい、地面に倒れた。 「ぐ…。ぐはぁ…。」  サンダーの全身から血が吹き出た。 「フ…。私は空間に自由に潜航することができ、  プラズマを操ることが出来る。  さっきのお前の電気技も、潜航により回避した…。」 「な、なんだと…。」  発生させたプラズマを、ファイブは刀状にまとめあげた。 「プラズマ・ウエイバーだ…。」  ファイブはプラズマ剣でサンダーに斬りつけた。しかしサンダーも右手に電気をため、斬撃を防ぐ。 「ほう…。」  サンダーはファイブの隙をつき、サンダーカノンを発射した。 「潜航!」  ファイブは空間潜航により、電気球の直撃をまぬがれた。再び出現したファイブは左手にプラズマを発生させた。 「プラズマ・トリッガー!」  発射体勢をとったファイブであったが、別方向よりのWEED弾を回避するため、それをあきらめた。ファイブは弾導方向を見据えた。 「フ…。ハルフォークか…。」  ハルメッツはサンダーに駆け寄った。 「陽子さん!」 「由鷹くん! こいつは…?」 「ブルズ・アイの戦闘隊長です…。ただ、普通の人間じゃない…。」 「み、みたいね…。」  陽子はファイブを見上げた。 …10  真由は時々ふらつきながらも、爆発が続く地下基地の通路を歩いていた。 「サ、サンダー…。」  サンダースラッシュの直撃をくらったものの、真由はかろうじて生きていた、 『サンダーは…。手加減したというのか…?』  真由にはわからなかった。それ故、サンダーともう一度対決し、その真意を確かめたかった。時代の死体を確認した真由は、部屋から出ると通路で立ち止まった。 「反応?」  真由は共鳴反応を感じ、動力室へと向かった。辺りには爆発による煙が立ちこめている。 「りゅ…。竜!」  倒れている竜に、真由は駆け寄った。 「まだ…。生きている…。」  わずかではあるが、竜の生命の灯は消えてはいなかった。真由は険しい表情で、右手に空震をためた。 「殺してやる…。」  その時、竜の意識が回復した。 「真由…。か…。」 「ああそうだ! 運が無かったな、竜!」 「俺にとどめを刺してくれるのか?」 「その通り!」 「そうか…。助かる…。女にとどめを刺して貰えるのなら幸せだ。」 「き、貴様ぁ…。」 「お、お前に…。何をされても…。文句は言えないからな…。」 「…。」 「ほ…。本当にすまないことをしたと思っている。だが…。  あの時お前を連れて…。逃げることは不可能だった…。」 「そんな言い訳! それより何をしにここに来た!  そして誰にやられた!」 「逆手術の…。データを…。盗みに来た…。そして…。  ファイブにやられた…。」 「ファイブが…。でも馬鹿だよ。あんたは…。  逆手術が成功するのは、Aランクだけなんだよ…。」 「そ、そうだったのか…。」 「体…。まずいの?」 「ああ、もう長くは無い…。だから…。とどめを刺してくれ。」 「…。」  真由は空震を収めた。 「どうした…?」 「気が…。気がかわった…。  貴様の肉体が無様に崩れる様を、この目で見届けてやる…。」 「…。」  真由は腰を降ろすと、竜を背負った。 「この基地はもう駄目だ…。時代様も死んでしまったし…。  脱出するわよ。」 「ああ…。任せる…。ただ、実験室で薬を取っていきたい…。」 「ふん…。」  竜を背負ったまま、真由は実験室へと向かった。 『俺の運も尽きてはいなかったな…。賭けに勝った!』  竜は、真由のプライドを逆撫ですることで、生き延びることに成功した。 …11  ハルメッツの参戦により、サンダーの状況は好転した。 「そこ!」  ハルメッツはWEED砲を発射した。 「チィ!」  ファイブは空間潜航により、WEED弾をかろうじて回避した。 「大丈夫? 由鷹くん!」 「あ、ああ…。なんとか…。」 「プラズマ・トリッガー!」  ハルメッツの隙をつき、プラズマ球が彼女に命中した。 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  ハルメッツの装甲板が各所で剥がれた。 「陽子さん!」 「わ、わたしは大丈夫…。それより由鷹くん。ノヴァは撃てそう?」 「え、ええ何とか…。」 「私の生体ロック装置であいつの動きをロックするわ。  そしてWEED弾を回避して消えたら…。」 「出現地点がわかる訳ですね…。」 「そう、そしたらノヴァをお願い。」 「わかりました!」 ハルメッツはロック装置でファイブを捉え、WEED砲を発射した。 「またか! 潜航!」 ファイブは空間潜航をした。そしてハルメッツはファイブの出現ポイントを捉えた。 「由鷹くん! 後ろよ! 斜め上!」  陽子の叫びに合わせてサンダーは振り返った。 「はうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  サンダーは持てる力を振り絞った。 「サンダー・ノヴァァァァァァァァァァァァァァ!」  電気嵐は何もない空中目がけて殺到した。そして、そのポイントにファイブが現れた。 「な、なにぃぃぃぃぃぃぃ!? サンダー・ノヴァだと!」 ファイブは大電圧のサンダー・ノヴァに吹き飛ばされた。防御しようとした右手が崩れ落ちる。ファイブの姿がサンダーとハルメッツの前から消えた。 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…。」 サンダーは転換を解いた。 「…。」  ハルメッツもキット・プロテクターを離脱させた。ふらついた由鷹が陽子にもたれかかった。 「ハゥ、ハァ、ハァ…。」 「由鷹くん…。」 「これで…。すべてかたずいた…。」 「…。」 「陽子さん…。戻ろう…。東京へ。」  陽子は港の方を見た。港には自衛隊の護衛艦が入港しようとしていた。 「自衛隊が到着したようね…。」 「…。」 「行こう…。由鷹くん。」 「ああ…。」  由鷹と陽子は警備艇に向かって歩き出した。 …12  基地の爆発は続き、島の各所からは煙が上がっていた。陽子は、事後処理を全て自衛隊に任せると、巡視艇を東京に向けて出航させた。そして島の五キロ先の上空、片手を失ったファイブが出現した。 「ハァ、ハァ、ハァ…。」  サンダー・ノヴァの直撃を連続潜航で何とか避けたのだが、体力の消耗は著しい。空中に浮遊しながらファイブはつぶやいた。 「やはり…。  人間の力を当てにした私が愚かだったということか…。」  ファイブは上空を仰ぎ見た。 「シックスを呼ぶしかなさそうだな…。」  巡視艇は平内新島を離れた。後部デッキに毛布にくるまった由鷹が蹲っている。由鷹は煙の立つ平内新島を焦点の合わない視線で見つめていた。由鷹の脇にブリッヂから降りてきた陽子が遣ってきた。由鷹は一度頭を軽く振るとつぶやいた。 「結局…。何も変わっちゃいないんだ…。何も…。」 「由鷹…。」 「めぐる…。竜…。夏彦…。」  疲れ果てた由鷹は眠りについた。陽子は平内新島を見た。 「終ったのね…。これで…。何もかも…。」  東京で抵抗を続けていた転換者達も、政府の時代乱九郎死亡の報を受け、武装解除された。わずかに逃亡した者達の行方も不明であった。東京についた由鷹がその後どのような人生を送ったか、どの様な闘いを続けたのか、ここでは触れない。  時代乱九郎は死に、ブルズ・アイは崩壊した。こうして一つの闘いはその幕を下ろし、新たなる闘いの幕開けを待つこととなる。 第八話「時代乱九郎の最後! ブルズ・アイ壊滅! …そして」おわり 一九九二年八月十三日脱稿