第六話「閃光不能! サンダーは二度死ぬ?」 …1 「夏彦…」  コンテナ上に立つ夏彦に対して、サンダーは身構えた。 「由鷹よ… 生きていてくれて嬉しいぞ。」 「由鷹さん…。」  めぐるは不安そうにサンダーを見上げていた。 「是玖斗さん。」 「な、なに? 由鷹くん。」 「めぐるを見てて下さい。」 「え、ええ、わかったわ。」  ハルメッツはサンダーが気を使ってくれるのが嬉しかった。今までの戦闘でハルメッツの疲労もピークに達しており、「新旋二型」自体もあちこちが故障していたからだ。 「由鷹! サンライズ作戦は発動された! 現行政府はもうおしまいだ!  そろそろ意地を張るのもやめたらどうだ!」 「あいにくだな! 夏彦。俺達はその作戦の実際を見たわけじゃない!  まだ絶望はしていない!」 「そうか…。」  夏彦の背後からもう一人、男が現れた。 「アース様…。」 「わかっている、コム。」  その男はせむし男のような体躯をしていた。 「うしゅ、うしゅしゅしゅしゅ…。」 「由鷹! この男はお前を地獄へ導く案内人となるだろう! 地覆!」 「うしゅしゅしゅ! 転換!」  夏彦とコムは転換をした。サンダー・キラーがコンテナより飛び降り、地上のサンダー目がけて突進する。 「サンダー・カノン!」 「リバース!」  サンダー・カノンはサンダー・キラーの超能力によって、地面へ送り返されてしまった。しかし、その隙にサンダーが肘打ちをサンダー・キラーの背中へと命中させる。 「ぐ!」  サンダーは続けてハイキックのラッシュを浴びせた。しかしサンダー・キラーも地面に突き刺していた両腕のパイルを引き抜き、反撃する。 「いいぞ! 由鷹! そうでなくては!」  凄むサンダー・キラーであったが、ダブルサンダーのコンビネーション攻撃の前では防戦一方となってしまう。たまらず、サンダー・キラーは後方へジャンプした。 「コム!」  サンダー・キラーの相方は、その呼びかけに頷いた。 「うしゅしゅしゅ!」 「な、なんだ…。」 「うしゅしゅしゅ… 俺はDランクコム!」 「Dランクだと…。」  コムの転換後の姿で最も特徴的なのは、巨大に変化したその頭部である。だが、それ以外の部分は全く転換前と変化が無い。 「うしゅしゅしゅ! 死ねー!」  コムはダブルサンダーめがけ突進した。危機を察知したプロト・サンダーは空中へ逃れた。 「サンダーァァァァァァァァァ!」  サンダーは拳に電気を溜めた。しかし、コムはひるまず突進を続ける。 「細胞転換破壊液! 発射ァ!」  コムの口から液体が発射された。しかしサンダーはそれに構わずサンダーパンチをコムの頭部に命中させた。 「ううううう!」  電気拳をくらったコムは、体をピクピクさせながら息絶えた。サンダーの右手にはコムの発射した液体が付着している。 「なんなんだ…。こいつ。」  プロト・サンダーが着地した。 「Dランクは…。総合戦闘能力の点ではコンバットマンにも劣るが…。  その替わり何か特殊な能力を持っている。」  サンダー・キラーがコンテナの上に立ち、サンダーを指さした。 「かかったな! 由鷹!」 「…!」  サンダーは突然右腕を押え、その場に蹲った。 「由鷹さん! だめだよ! そいつ! 始めから死ぬ気だったんだ!」  めぐるが叫んだ。プロト・サンダーがサンダーの様子を見る。 「どうした! 由鷹君!」 「か、体…。体が…。」  サンダーは転換を解いた。 「な、なに?」 「コムの破壊液は転換細胞を一時的に死滅させる!  つまりお前は閃光することが出来ない!」  サンダー・キラーは地面に着地し、パイルを打ち込んだ。 「ダンシング・アース!」  地震が発生し、プロト・サンダーもその場に倒れた。めぐるを抱えながら、ハルメッツが叫ぶ。 「夏彦君! あなた恥ずかしくないの!  転換できない由鷹と勝負して何になるのよ!  そうまでして勝ちたいの?」 「そうだ。」  サンダー・キラーの目が一瞬光った。そして四つんばいの体勢からジャンプをし、プロト・サンダーの右足にパイルを突き刺した。 「ぐぁぁぁぁぁ!」  サンダー・キラーはパイルでプロト・サンダーを空中へと放った。そして蹲る全裸の由鷹にパイルを突き付ける。 「死ね、由鷹…。邪魔者が…。」 「じゃ、邪魔者…?」 「そうだ、お前はいつも俺の前にいた。だが今は違う…。違う!」  サンダー・キラーがパイルを突き刺そうとしたその瞬間、地面が割れ、爆発がおこった。サンダー・キラーはその爆風波に吹き飛ばされた。 「な、なんだ! この爆発は!」  ハルメッツが各間接に装備されたリニアユニットを解放した。 「ムービング!」  ハルメッツはめぐるを肩車すると、高速移動でサンダーとプロト・サンダーを救出した。 「夏彦くん! どうやら地震を起こす場所をあやまった様ね!」  地面の亀裂に飲み込まれながら、サンダー・キラーが上空のハルメッツを睨み返した。 「どういうことだ! 是玖斗陽子!」 「…墓穴を堀たってことよ…。地下基地の動力室…。  火薬庫なんかが爆発したんだわ! 貴方がおこした地震で!」 「く、くそう!」  爆発がサンダー・キラーの周囲で起こった。 …2  由鷹とプロト・サンダーを救出したハルメッツは、品川でパトカーを拾うと、自らの運転で秋葉原の自宅へと向かった。 「横田…。練馬…。市谷も壊滅状態のようね…。」  「サンライズ作戦」の進行状況を無線で確認しながら陽子は独白した。予備の服を着込みながら、竜が答えた。 「とりあえず米軍や自衛隊を襲撃するあたり…。時代らしいな…。」 「そうなんですか?」 「ああ…。ブルズ・アイ首長、  時代乱九郎はもと全共闘学生の生き残りだ、  その男が狂気の力を手に入れた。」 「でも…。どうしてあんな生体改造技術が…。  まぁ、運用資金はどうにかしたとしても…。」 「わからん…。  そうだな、連中との闘いで感覚がマヒしちまっているが…。  確かに不思議だな…。一体どうして…。」 「うふ、うふふふ。」  陽子が楽しげに笑った。 「何がおかしい?」 「ご、ごめんなさい…。その…。竜さんがその…。おかしくって…。」 「そうか…。」  めぐるは機嫌が良かった。警察車両と自衛隊車両しかいない道路を、後部座席から眺めながら、めぐるは考えた。 『いいぞ、いいぞ…。このまま竜と陽子がいい感じになれば…。』  パトカーが五反田駅を通過しようとした時、竜が陽子に言った。 「止めてくれ。」  陽子はパトカーを停車させた。 「どうしたんです? 竜さん。」 「俺は小屋へ戻る。」 「え? どうして?」 「夏彦対策を立てなければ俺達は全滅だ。一人で考えたい。」 「どうします?」 「探偵時代のネットワークを使えば、高尾へ戻るのも訳はない…。  後はこの体で対策を練るだけだ…。」 「はい…。」 「由鷹君のことは任せた。じきに目を覚ますだろうからな…。」 「はい…。」 「心配するな…。すぐに戻る…。で、どこにいる?」 「自宅か…。もと人生調、科学研究室です。」  陽子は科学研究室の住所を書いたメモを竜に手渡した。竜が運転席の陽子に顔を近づけた。 「え、え?」  陽子は動揺した。竜が陽子の耳元でささやく。 「おい…。由鷹はご覧の通りの男だ。」 「え、ええ?」 「めぐるに取られる前にどうにかした方がいいぞ。」 「そ、そんな!」 「じゃあな。」  竜はチェリーに火をつけると、コートのポケットに手をつっこみ、戒厳令下の街中へと姿を消した。 『わかってるわよ…。そんなこと…。』  陽子は後部座席で毛布にくるまり眠っている、由鷹を見つめた。 「おい! 是玖斗!」  めぐるが陽子の顔を覗き込んだ。 「え? な、なに? めぐるさん?」 「由鷹さん…。少し落ち着いてきたみたい。  右手の青黒いのも無くなったし。」 「そう、なら、私の家に行きましょう。」 「安全かな?」 「多分…。ね、でも…。」 「そうだね…。今の東京で安全な場所なんて…。  在るわけないか…。」 『すごい子…。私の言いたいことまで先にいっちゃうなんて。』  陽子はめぐるのカン良さに改めて驚いた。  途中、何回かの検問を通過して、パトカーは秋葉原にあるマンションに到着した。 「ここの三階よ。」 「う、うううん…。」 「由鷹さん!」  由鷹は目を覚ました。 「ま、また助けられましたね…。陽子さん…。ここは何処ですか?」 「私の家、まぁ安全って訳じゃないけど…。」 「立てる? 由鷹さん。」 「あ、ああ、何とか…。」  三人は車を降りると、陽子の部屋に入った。 「へぇ…。奇麗な部屋だね…。」  めぐるは陽子の部屋をキョロキョロと見渡している。陽子は照れ笑いを浮かべながら答えた。 「うん…。あんまり帰ってこないから…。」  由鷹は少し遠慮している様でもある。 「由鷹くん、めぐるさん、二人とも座ってて、今お茶を入れるわ。」 「あ、はい。」  陽子はキッチンへ行くと、コーヒーをいれた。 「めぐる、竜さんは何処へ?」 「うん…。対策を練るとかって、小屋へ帰ったよ。」 「そうか…。」 「体の調子はどう?」  陽子がコーヒーカップを二つに、コーラの入ったグラスを一つ運んできた。 「もう、大丈夫です。」  由鷹がコーヒーカップを取った。めぐるもそれに習いコーヒーカップを取る。 「あ…。」  陽子は仕方なく、グラスを手にした。 「あの毒液はどうやら時間の経過によって、  効力が衰える性質の様です…。調子はさっきよりもいい…。」 「でも、不安だし…。一応検査をしたいんだけど。」 「嫌です。」  由鷹はきっぱりと断わった。 「そんな…。まだどんな副作用があるか分からないのよ!」 「うるさいぞ是玖斗!  由鷹さんは行かないって言ったら行かないんだ!」  めぐるが叫んだ。 「そう…。なら…。仕方ないな…。」 「すみません、わがまま言って…。」 「ううん…。」  陽子は首を横に振ると、テレビをつけた。テレビでは、どの局もブルズ・アイ情報でもちきりである。 「横田への襲撃は成功だった様ね。」 「え?」 「うん…。ブルズ・アイが米軍基地を襲撃したそうよ…。  政府は対応に混乱しているわ。」 「あの…。」 「何? 由鷹くん?」 「こんな状況になって…。陽子さんは忙しくないんですか?」 「ううん、干されちゃってるみたい?」 「そんな…。嘘でしょ?」 「嘘よ。」  陽子はそっ気無く返事をした。 「いいんですか?」 「ええ、どうせ国の対応なんて、  ブルズ・アイに直接切り込むきっかけすら掴めないわ。」 「…。」 「貴方達と一緒にいた方が…。」 「ねぇ是玖斗。」 「なに?」 「由鷹さんをいつまでも毛布でくるんでおく訳にはいかないし…。」 「そ、そうね…。でも…。ここには女物しかないし…。」 「買ってこようか?」 「なら私が行くわ。」 「でも…。今の街の様子じゃ、何処も店は開いてないでしょう?」 「だったら、あたしが盗ってくる!」 「だめだ!」  由鷹にどなられ、めぐるは萎縮した。 「大丈夫、友達の家に行って借りて来るから。」 「あれ? 是玖斗の彼氏?」 「まさか! 女の人よ、男の友達がいる。」 「あ、ああん…。」  由鷹は妙な納得をした。 「三時間もしたら戻って来るから。めぐるさん。」 「なに?」 「由鷹さんをよろしくね。」 「はいはい、もう帰ってこなくてもいいんだよ。」 「…。」  陽子は黙って出て行った。 「めぐるさ。」  めぐるは少しうつむいた。 「わかってるよ…。  でも不安なんだ、是玖斗さんに由鷹さんを  取られるんじゃないかって…。」 「…。」 「ど、どうしてだまってるの…。」 「分からないよ…。どうすりゃいいのか…。  ごめん、又寝かせてくれないかな?」 「あ、あたしはいいけど、何処で寝るの?」 「そ、そんか…。ならこのイスでいいよ。」 「こんなのじゃ疲れ落ちないよ。待ってて!」 めぐるはキッチンの扉を開けると寝室へと向かった。 「おい、めぐる! 人の家だぞ!」 「いいもん。」  めぐるは寝室の扉を開けた。 「ほら、ここにはソファーもベッドもあるよ。」 「…。いいのかな?」  由鷹は部屋を見渡した。 「いいに決まってるでしょ?」 「なら…。ソファで寝るかな…。」  めぐるが由鷹の方に振り向いた。 「ね! 一緒になんてどう?」 「…。」 「ご、ごめん!」  めぐるは部屋から出て行った。由鷹はソファに腰掛けた。 『子供は…。疲れるな…。』  由鷹は視線を泳がせた。 「ここが…。陽子さんの部屋か…。」  部屋は小奇麗に掃除が行き届いているが、何処か生活感がない。 「ああいう女の人って…。こんなもんなのかな?」  由鷹はソファに横になった。 『思えば変な状況だな…。でも…。いいな…。』  由鷹はなぜか幸せな気持ちのまま、眠りに落ちた。 …3  陽子はパトカーで目白の友人宅までやってきた。  『どう頼もうかしら…。』  陽子は意を決して、呼び鈴を押した。 「はい…? 陽子じゃない!」  玄関の扉が開き、陽子と同年代の、だが生活感ある女性が出てきた。 「久しぶり、辰美。」 「どうしたの? こんな時に。」 「うん…。ちょっとお願いがあって来たの。」 「ふうん…。ま、いいわ。上がって。」  岸牙辰美、是玖斗陽子の高校時代の友人である。一年前に貿易商の男性と結婚して現在に至る。 陽子は居間に案内された。 「どう? 内閣の方は? また議員先生の食事の相手とかしているの?」 「え、ええまぁ…。」  辰美は陽子の人生調以降の経歴を知らなかった。 「…? なに? そのごっついトランクは?」 「あ、これ…。ほら、書類入れよ。機密書類とかね…。」 「ふぅん…。すごいなぁ…。」 「うふふふ、そんなこと無いわよ。それより貴女の方はどうなの?」 「退屈で仕方がないわ。旦那はしょっちゅう海外だし。」 「今も?」 「ええ、二月までカナダよ。」 「そう…。」 「ね、陽子…。どうなっちゃうんだろ…。」  辰美は不安を正直に出した。 「わからないわ…。」 「自衛隊も殆どお話にならないって言うじゃない。」 「そうね…。」 「このまま、やっぱり強制収容所とかに連れて行かれたりして!」 「まさか…。」  そう返事をしつつも、陽子の表情は暗かった。 「だって…。」 「大丈夫よ、すぐに今まで通りになるわ。」 「…。」 「ね、辰美。」 「そうそう、何の用事で来たの?」 「うん…。あのね…。男物の…。服とか…。ズボンとか…。  貸して欲しいんだけど…。」 「えっ!」 「あ、あの! 親戚の人が来てるのよ!」  あわてる陽子を辰美はいたずらっぽい笑顔で見つめた。 「…。」 「あ、あん…。ごめん…。」 「別にいいわよ。陽子。旦那のでよかったら。」 「ご、ごめんね…。」 「お店とか閉まってるし。ところで…。どんな男なの?」 「い、いい人よ。ちょっと変わってるけど…。  ごめん、急いでるんだ。」 「ん、ちょっと待ってて。」  辰美はリビングから出ていった。 『いい人…。か…。』 「はい、これでいい?」  両手に抱えたボストンバッグを、辰美は陽子に手渡した。 「うん、これだけあれば。」 「一応、靴下とか下着も入れといたから。」 「ご、ごめん…。」  陽子はソファから立ち上がった。 「じゃ、ごめんね、急いでるから。」 「うん、時々電話とかしてね。」 「うん。」  陽子はトランクとボストンバッグを持って玄関までやって来た。 「じゃ、辰美。ありがとう。」 「陽子…。」 「?」 「がんばってね。陽子。貴女いつも変な失敗ばっかりするから。」 「うん…。」  陽子はパトカーに乗り込もうとした。ドア越しに辰美が声をかける。 「すごい! パトカーじゃない!」 「あははは! あたしの彼、警察官なんだ!」  陽子は目白を後にし、駒込の研究室に向かった。 …4 「随分と寝ちまったな…。」  由鷹は目が覚めた。外を見るともうすぐ日没である。由鷹はカレンダーに目をやった。 「そういえば…。もうすぐクリスマスか…。」  向いのソファではめぐるが寝ている。 「疲れてたんだな…。」  毛布で体をくるみながら、由鷹は部屋を出た。 「た、ただいま。」  玄関には荷物を持った陽子が立っている。 「お、お帰りなさい…。」 「こ、これに着替えて。」 「はい。」  由鷹は食器柵の陰でジャケットに着替えようとした。 「あ、それね。友達の旦那さんのやつなの。」 「あ、はい。」  由鷹は着替えると食器柵の陰から出てきた。 「陽子さん…。」  陽子はハンカチで涙をぬぐっていた。 「どうしたんですか?」 「なんでもないわ…。そう、これ…。」  陽子は由鷹にカプセル状の薬品を渡した。 「あなたの肌についてた毒液をもとに…。  服を借りた帰りにね、研究室で調べてもらったの。  そしたら、この薬をもらって…。」 「何の薬ですか?」 「簡単に言うと、細胞に付着した皮膜を分解するの。  一時的に死滅した細胞を生き返らせることができるわ。」 「あ、ありがとうございます。是…。いえ、陽子さん。」 「ごめんね、勝手なことしちゃって。」 「いえ、いいんです。」  陽子は由鷹にコップに入った水を差し出した。由鷹はそれを受取り、薬と一緒に飲み込んだ。 「陽子さん。」 「な、なに?」 「すみません…。俺の為に古い友達とかに会わせちゃって…。」 「…。どういう意味?」 「…。俺も…。夏彦と再会したとき…。嬉しい半面…。嫌でした。  こんな変わり果てた自分に気づかれるのが…。」 「由鷹くん…。」 「でも…。あいつは…。」 「優しいんだね、由鷹くんは。」 「結局…。化物ですけどね。」 「んふ…。だったら私は機械人形よ。」  陽子の語りは、由鷹にとって微弱な精神的負担を与えていた。 「…。」 「あのね…。その…。敬語使うのって…。やめてくれない?」 「でも…。」 「お願い、いいでしょ。」 「あ、ああ…。はい。」 「夕食って…。」 「あ、めぐると同じでいいです。  そういうとこって変わってないん…。だ。」 「はい。」  陽子は微笑むと、キッチンで夕食を作り出した。寝室からめぐるが出てきた。 「ふぅん…。似合ってるんだ。」 「だろ? 背丈も結構合ってるし。」 「あれ、是玖斗、あなた料理なんて作れるの?」 「作れるわよ、めぐる、人を見かけで判断したらだめよ。」 「でも…。ふぅん…。」  めぐるは妙な納得をしてイスに座った。 「ねぇ…。是玖斗、答えたくなかったら無視していいんだけど…。」 「なぁに? めぐる。」  めぐるはニヤリと微笑んでこう言った。 「あなた、竜のこと…。どう思ってるの? 好きなの?」  めぐるの唐突な質問に、陽子は手にしたさい箸を落してしまった。  由鷹も驚きながらめぐるを見る。 「めぐるは由鷹さんのことが好きだよ。  歳は離れてるけど、サンダーだけど、あたし全然気にしてないもの…。  でも是玖斗はどうなの?  パトの中じゃ、竜と随分仲良さそうにしていたけど…。」 「め、めぐる…。」  陽子は困惑してしまった。由鷹の事は何度か本気で考えたこともあったが、竜のことなどは意識したこともない。 「どうなの? 是玖斗。」  陽子が何か言おうとしたとき、外で爆発音が聴こえた。由鷹は素早い身のこなしでベランダへ向かった。外では、自衛隊の戦車が一両炎上している。 「くそ!」  由鷹は肉体に確かな手ごたえを感じた。 「陽子さん! ブルズ・アイだ!」  戦車の側には自衛隊員の死体が散乱している。そして今も尚、殺戮を繰り返す二名の「ギロスティン・タイプ」とそれを指揮する転換前のウインド。 「ウ、ウインド…。」  由鷹はベランダから飛び降りた。 「閃光!」  衣服を脱ぎ、サンダーに転換した由鷹は地面に着地した。サンダーの体中から放電があり、辺りの街灯がショートする。 「サ、サンダー…。」 「ウインド…。君一人か…。」 「まさか…。貴方とこんなところで会うなんて…。ふん…。  まだ生きていたのね、てっきり夏彦が始末したと思ってたわ…。」 「あいにくと悪運だけはね…。」  コムの細胞転換破壊液を、陽子のワクチンにより分解した由鷹だったが、副作用が残留しているため、初期形態にしか転換できなかった。 「そんな中途半端な肉体で、よくも…。無謀だね!」 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  サンダーは体中に力を込め、電力を上げた。 「サンダー! シャワーァァァァァァァァァァァ!」  サンダーの体全体から、電気がほとばしった。二名のギロスティンはたちまち黒コゲになった。ウインドは空中にジャンプした。 「風来!」  ウインドは転換をした。サンダーは着地したウインドにすかさず足払いを仕掛けた。しかしウインドはバック転でそれを回避した。 「レイザァー・フーン!」  サンダーは腕をクロスして風圧に絶えた。そこにウインドの手刀が作烈する。サンダーは直ちに体勢を建て直し、ウインドにサンダー・スラッシュを発射した。スラッシュがウインドの肩をかする。 「なかなかやるな! サンダー!」 「やめろ! 出来れば君は殺したくない!」 「ふざけるな、サンダー! チェーン・ウインド!」  サンダーは右に転んでウインドの攻撃を避けた。 「キャノン!」  サンダーは両手から電気球を射出した。 「う、ううう!」  電気球はウインドの腹部に命中した。傷口を押えながらウインドは上空にジャンプした。 「サ、サンダー…。勝負はまた、次の機会だ…。」  ビルの屋上に着地したウインドは、更にジャンプをして夕日の沈む地平線へ消えた。 「由鷹くん!」  サンダーに、めぐると陽子が駆け寄ってきた。 「ご、ごめん…。 陽子さん。」 「服のこと…。いいのよ、まだ替えはあるから…。  それより、今のって。」 「連中の基地にいた頃の知り合いです…。」 「そう…。」 …5  夜、国道一号線に一台のオートバイが爆走していた。そのバイクは何度か検問を強行突破している為、警察の装甲車によって行く手を遮られた。バイクは停車し、ライダーはバイクから降りた。 「チッ。」  装甲車から何人かの警察官が降りてきた。 「こら! 貴様! 外出禁止令が出ているんだぞ!」 「…。」  一人の警官が懐中電灯をライダーに当てた。 「ひ…。ブルズ・アイ…!」  警官達はパニックに陥った。ライダーの服装は今、世を賑わせているブルズ・アイの戦闘服であった。 「パイル!」  ライダーは左手から鉄杭を飛び出させると、警官を二人まとめて串ざしにした。 「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」  警官達は逃げ惑い、装甲車に乗り込んだ。 「人のこと邪魔しといて! 今度は逃げるって了見!  気に入らねぇな!」  ライダー…。夏彦はパイルを装甲車のエンジンに突き刺し、引き抜くとバイクに跨った。 「俺は急いでいるんだ…。」  装甲車は爆発、炎上をした。 「由鷹め…。どこに逃げたんだ…。」  夏彦は夜の街を爆走した。 …6 「めぐる…。寝たけど。」  由鷹は寝室からキッチンへと出てきた。陽子がコーヒーカップを二つ持ってくる。 「昼ね、コーヒー私が飲もうとしたのよ。」 「あ、あはは…。」 「あのね、由鷹くん、さっきめぐるさんが言ってたことなんだけど…。」 「竜さんは大人だからね。」  言いながらも、由鷹は自分の言葉に妙な刺を感じていた。 「そう…。そうね、私みたいな子供じゃね…。」 「好きなんですか?」 「まさか! どうして!」  陽子は強く否定した。 「あ…。はい…。俺は…。」 「ね、由鷹くん。私、ちょっと不安なの。」 「…?」 「竜さんのこと…。何考えてるかわからないでしょ…。」 「でも…。力になってくれてるじゃないですか?」 「そうね…。ただ、もし由鷹くんを利用しようと  しているとするのなら…。」 「陽子…。さん。」 「え、え?」 「もし、竜さんが俺を利用しようとしていようが…。  いいじゃないですか。」 「うん…。 でも、もしそれで由鷹くんが…。」 「心配してくれるのは…。嬉しいんですけど…。  もし竜さんが敵に回るんなら…。そのときは倒します。」 「そう…。そうね…。」  由鷹の決意に陽子は流されてもいいと思った。 「陽子さんはそんなのじゃないですよね。」 「そうね…。でも…。」  陽子は不敵に微笑んだ。 「貴方次第よ、由鷹くん。」  夜は更けていった…。由鷹と陽子、そしてめぐるそれぞれの思惑をよそに、現行政府転覆のプロジェクト「サンライズ作戦」は進行していった。 第六話「閃光不可能! サンダーは二度死ぬ?」おわり