第四話「友は悪魔となって…天敵 サンダーキラー!」 …1 乱由鷹にとって一九九二年は記念すべき年であった。無論、彼にとっての最大の事件 は秘密結社「ブルズ・アイ」にAランクサンダーに改造されたことであったが、それと は別の方向性で彼に新鮮な経験をもたらせたのは…。 「乱由鷹、出ろ! 取り調べだ!」 国家権力に囚われ、その自由を拘束されることであった。 大手町「人生調」本部で警察に、重要参考人として逮捕された由鷹は、警察病院での 治療の後、渋谷警察署に勾留された。 「内閣法制局分所における大量殺人の首謀者、それが君にかけられた嫌疑だ。」 取り調べを担当する刑事は、冷静な口調でそう言った。 「…。」 「黙秘権か? なるほどね… 拘留期間ってのはな、いくらだって延長できるんだ。   三週間だって、三カ月だってな。」 「最大二十三日でしょ? 大嘘はやめて下さい。」 「な、なに… 貴様。」 「あの状況で俺が首謀者だって、どうして決定できるんです? あの現場にいた女   性、是玖斗さんからは事情を聞いているんですか?」 「なら質問を変えよう、乱由鷹君。君はなぜあの日のあの時間にあの場所にいたのか   ね?」 「…。」 由鷹は黙秘を決め込んだ、それがこの際有利になると判断したからだ。 …2 『まったく… あの時に偶然大手町になんか行かなかったら…。』 由鷹はそう思考した。あの日、プロトサンダーと別れた由鷹は、品川の街をめぐると 二人で歩いていた。 「ねぇ由鷹さん。これからどうするの?」 「…。」 「あの、何とかサンダーって人の力って、いるんじゃないのかな?」 「かもな…。」 「あの人が由鷹さんを助け出したのは事実だし、夏彦さんをどうにかしたいんだった   ら、一人じゃ…。」 「そんなことは解ってるさ…。」 「ならさ、どうにかしないと… ほら。」 めぐるは由鷹に一枚の名刺を差し出した。 「なんだ? これ?」 「何とかサンダー。」 「プロト・サンダー。」 「そう、プロト・サンダーのポケットから、ぎったの。」 「ぎるって?」 「スッたのよ。」 「めぐる… お前な!」 「あはははは、でね、財布の中にこんな名刺が入ってたのよ。」  名刺には「UDO探偵事務所 所長 名利 竜」 と、書かれていた。 「彼の名刺かな?」 「だと思うよ、これとおんなじ名刺がいっぱい入ってるし。」 「…。」 「ね、いってみようよ。」 「めぐる。」 「なに?」 「妙にあの男に会いたがっているな、お前。」 「うん… だってもう帰るとこもないし… あの連中と闘ってる人が由鷹さん以外に   いるんだったら…。」 「そうだな… 仮にあいつが組織の人間だとしても… その時はその時だな。」 由鷹とめぐるは地下鉄で大手町までやってきた。そして偶然「人生調」本部ビルの前 を通りかかった時、敵の気配を感じた由鷹がビルに突入したのだった…。 そしてこの顛末である。 …3 「では別の質問だ由鷹君、君は今年の一月八日から一体どこで生活していた?」 由鷹の回想をよそに、取り調べは進行した。 「…?」 「一月八日、生科学会の新年パーティーの後から、君の足取りが一行につかめない、  自宅にも戻った形跡は無いようだし…。」 「…。」 「協政連合の事務所に、君が出入りしていたってね…。そういう情報もあるんだ   よ。」 「協政連合…?」 「しらばっくれてんじゃねーよ! 革命的マルクス主義を信奉する協同政治改革連合   ! あの大量虐殺事件にも犯行声明が届いているんだよ!」 「お、俺がテロリストの一味だって… 言うのか?」 「ああそうだ! 協政連合と貴様の因果関係はとっくに調査済みなんだ! さっさと  素直に口を割らねーか!」 「因果関係なんてデッチ上げでしょう! 誘導尋問をしようとしたって無駄だ! 俺   はそんな団体とも関係なければ、あの事件の犯人でもない! 是玖斗陽子に会わせ   ろ! 彼女は全てを知っている!」 「彼女、班長はここにはこれないよ。」 そう言いながら取り調べ室に入室してきたのは「人生調」神白隊隊長、神白成一であ った。 「お、お前は…。」 「刑事さん…。てこずっているようですね…。」 「ん、まぁな…。」 神白はニヤリと微笑んだ。 「乱由鷹よ、俺はあの日は別件調査があって高尾山に行っていたから命拾いはしたが   …。お前が殺した人間の中には俺の部下だっていたんだ。」 「…。解ったぞ! あんたが警察に手を回したんだな!」 「ああそうさ! だがな、確かな確証があってのことだ!」 「ばかな! 俺がブルズ・アイと闘っていることはあんただって見ていただろう!」 「しかしあの現場には仲間の死体と貴様しかいなかった!」 「ブルズ・アイのBランクは? コンバットマンの死体は?」 「いなかったな! 残留反応はあったが! 貴様が逃したんだろう!」 「さ、細胞分解による証拠隠滅か…。」  神白は激昂すると、由鷹に詰め寄った。 「なにを言っていやがる!」 「是玖斗… あんた達の班長さんは?」 「あの事件以来、入院中だ。意識はまだ回復していない。」 「そ、そんな…。」 「陽子… 班長も相当なショックだったんだろう? 貴様には入れ込んでいたから   な。」 「…。」  神白は卑屈に笑った。 「くっくっくっ、貴様、裸で倒れていたんだってな?」 「…。」 確かに転換時の筋肉増長により、サンダーになった時点で乱由鷹は裸となってしま う。 「何をしようとしていたのやら…。」 「神白君。」 刑事が神白を呼んだ。 「もういいだろう、人事院の人間がここに入室する時点で、既に超法規なんだぞ。」 「わかりました…。」 神白は肩をすくめ、軽くため息をついた、その時である。 「うぎゃー!」 取り調べ室の廊下で叫び声がした。刑事と神白はとっさに立ち上がった。 「来た!」 由鷹の心に共鳴反応があった。「ブルズ・アイ」のカスタムクリーチャーが接近して きた時のあの感覚である。由鷹はなぜか嬉しかった…。 「何だ!」 刑事は扉を開けて、そう叫んだ。 「ブ、ブルズ・アイか…。」 神白はうるさいアラーム音を鳴らす人造生体探知機を見ながら、そうつぶやいた。由 鷹は刑事を押し退けると廊下に出た。 「こ、こら貴様!」 刑事が由鷹の腕をつかんだ。廊下からは銃声すら聴こえてくる。 「危険だ! 取り調べ室に戻ってろ。」  由鷹にとって、その刑事の行動はなぜか意外なものであった。 「刑事さん…。」 「いくら大量殺害犯であっても容疑者である以上、貴様は一般市民だ。解るな。」 しかし、共鳴反応を持つものは階段をゆっくり上がっていくと、由鷹達のいるフロア ーに到着した。由鷹と視線が交錯する。 「…。」 共鳴者、ウオーターは由鷹をじっと睨みつけた。 「警察に捕らわれていたとはな、意外だったぜサンダー。」 「トリプルA! 貴様一人か!」 「ああそうだ、もっとも、俺一人でも貴様程度を始末するのはわけないがな。」 刑事が一歩前へ出た。 「何だお前は、許可の無いものはここまで入ってきちゃいかん。」 「ふん… 公僕が。」 刑事はウオーターに近ずいていくと、その右腕をつかんだ。 「俺の言っていることが解らんのか?」 ウオーターは目から強烈な殺気を発すると刑事を振りほどき、壁に叩きつけた。 「ぐはぁっ!」 刑事は吐血をするとその場に座り込んでしまった。由鷹が攻撃体勢に入る。 「水震!」 かけ声と共にウオーターは転換した、その衝撃波で四方の壁にはひびが入り、刑事の 体は粉々に砕け散った。ようやく意を決した神白が、特殊弾頭を装填した拳銃でウオー ターに銃撃を加える。しかしその弾丸も全てウオーターの装甲に弾きかえされた。 「ば、ばかな…。対人造生体用弾丸が通じないなんて…。」 「シュシュシュ…。俺の体には三層からなる生体甲が装備されている…。そのような   豆鉄砲など通じんわ!」  ウオーターはそう言うと由鷹に飛びかかった。由鷹は素早くそれを回避すると神白 を取り調べ室に押し込んだ。 「ウオーターシュートッ!」 ウオーターは頭部から溶解液を発射した。しかし溶解液は落雷の衝撃ではねかえされ た。 「転換したな! サンダー!」 「三人で来れば良かったものを…。お前一人の力では俺を倒すことはできん!」 「どうかな! サンダー!」  ウオーターは全身を震動させながら、サンダーへ突進していった。 「サンダーパンチ!」  サンダーは電気拳をウオーターの背中に命中させた、しかしウオーターは大して ダメージを受けてはいない。 「チッ、対電装甲か!」 「俺の力は本来水中で発揮される。水中で最も脅威となるのは電気技だからな…。  この程度の対処はしてあるよ!」 ウオーターは長い尻尾を駆使した打撃攻撃で、サンダーを瞬く間に壁際まで追い込ん だ。そして二歩三歩後退し、体中をブルブルと震えさせ始める。 「水震ジェット、セットオン! シー・マァァァァドッ!」 水球と化したウオーターがサンダーに体当りをした。何とか両腕でウオーターの攻撃 を受け止めたサンダーであったが、ウオーターはなおも回転を続けている。 「な、なに…。」 サンダーは自分の両手が次第に溶解されていくのを認識した。 「シュシュシュシュシュ! 頭部から発射されるものと同一の溶解液だ! そして   今、俺は回転している。この意味がわかるか? サンダー!」 「電気が遠心分離されると言うんだろう!」 サンダーは、両手から小放電をしながら軽いバリヤーを作ると、手の溶解を食い止め た。しかし回転により飛び散る溶解液は、着実にサンダーの五体を溶かしていく。 「このまま溶けろ、サンダー!」 ウオーターが勝利を確証した瞬間、彼の頭上の天井が崩れ落ちた。 「タァーッ!」 天井から飛び降りてきた真紅のサイボーグ「ハルフォーク・メディッツ」は両拳でウ オーターを叩き落した。たまらずウオーターが後退する。 「ハ、ハルフォークか!」 ウオーターは本部で見たデーターをもとに、そう叫んだ。 「そう! ハルフォーク・メディッツよ! ブルズ・アイの化物め!」 「お、俺を化物と言うな!」 サンダーは左肩を押えながら立ち上がった。 「是玖斗さん、病院じゃ…。」 「話は後にしましょう、由鷹くん。」 ハルメッツは両腕にWEED砲を装着すると、二門同時にワクチン破壊液を発射し た。ウオーターの右肩の装甲が溶け落ちていく。 「今よ! 由鷹くん!」 サンダーは、右拳に発電出来うる限りの電気を溜めるとウオーターの右肩目がけ、サ ンダーパンチを打ちつけた。 「グ、グオオオオオーン!」  ウオーターは奇怪な鳴き声を上げると床を溶解させ、一気に地上まで降下した。 追撃しようとしたサンダーとハルメッツに数名のコンバット・マンが立ちふさがる。 …4 サンダーはコンバット・マンを撃退した後、ハルメッツに連れられガード下までやっ て来た。 「離脱!」 ハルメッツは「新旋二型」を収納状態に戻した。そしてトランクから男物の衣類を取 り出すと、サンダーにそれを手渡した。 「あなたも、転換を解除してくれる?」  サンダーは転換をとくと、陽子の渡した衣類を着用した。 「ごめんなさい、由鷹くん。」 「もう…。体の方は大丈夫なんですか?」 「ええ、でもびっくりしたわ…。警察に捕まってたなんて…。」 「驚いたのは俺の方ですよ…。そうだ、是玖斗さん。」 「え? なに?」 「俺の容疑を晴らして貰えませんか? 彼等、俺が貴方達の本部を襲撃したものだと  勘違いしている様です。」 「え、ええ…。そうね。でもそれだったら私一人でやるわ。」 「俺…。ついてかなくていいんですか?」 「今のも貴方のせいだって言う人…。いると思うの。そうなるとややこしいでしょ   ?」 「あ、はぁ…。」 「でも…。容疑が晴れるまでどうするの? 行く当ては?」 「一応あります。ただ住所がわからないんで、何とか調べてみますよ。」 「そう…。じゃ、決まったら連絡してくれる?」 陽子はそう言うと、メモ帳に自分の住所と電話番号を書き込むと、そのページを引き ちぎり、由鷹に渡した。 「ここに連絡して。」 「は、はぁ…。わかりました。じゃぁ。」 由鷹はメモをポケットにしまい込むと、陽子に背を向けた。 「あ、待って、由鷹くん。」  由鷹は頭を横に向け、横目で陽子の方を見た。 「ありがとう…。この間は命を助けてくれて…。」 「…。」 由鷹は無言で微笑むと、その場を後にした。 「さてと…。大手町まで歩くかな…。」 由鷹はプロト・サンダー・竜に会うべく、彼の事務所を尋ねることにした。 …5 大手町にやってきた由鷹は名刺の記憶を頼りに、寺谷ビルまでやって来た。五階まで 上がった由鷹の目の前には、座り込んだめぐるがいた。 「由鷹さーん!」 由鷹を見つけためぐるは飛びついて抱きついてきた。 「心配かけた…。」 「もう平気なの?」 「ああ、是玖斗さんが釈放してくれたんだ。」 陽子の姿を思い出しためぐるは由鷹から離れた。 「この事務所の鍵、開けといたから。」 「あ、ありがとう…。調べてみるかな? 手がかりとかあるかもしれないし。」 由鷹とめぐるはUDO探偵事務所に進入した。事務所には誰もおらず、机一つなかっ た。めぐるはあたりを見渡した。 「もう半年以上は開けてるね。」 「にしても荷物もなにも無い…。ものけの空だな。」 「うん、引っ越しちゃったみたいね…。」 「あれ…。」  由鷹は軽い共鳴反応を感じた。しかし、その反応には殺気が無い。 「向こうの扉か…。」 由鷹は反応を求め、シャワールームの扉を開けた。部屋の壁には。 「高尾山へ来い サンダー」 と、書いてあった。 「高尾山か…。」 めぐるが壁をのぞき込んだ。 「なんにも無いじゃない…。」 「どうやらあぶり出しの様なもので書いてあるらしい…。転換者にしかわからないよ   うに…。」 「ふーん…。でもだったら変だよ。」 「何で。」 「だってそうでしょ? もし、プロト・サンダーがブルズ・アイと闘っているとした   ら、ブルズ・アイだってプロト・サンダーの居場所を捜すはずでしょ?」 「ああ。」 「なら、この場所だって、とっくに調べたんじゃない?」 「そうか…。この文字が見えるしな…。」 「でしょ、でしょ!」 「罠かな…。」 「それとも単なるおバカさんか…?」 「ふん…。」 由鷹はその場を二、三度うろついた。 「行こう、めぐる。高尾山へ。」 「そう言うと思った…。」 由鷹とめぐるは高尾山へと向かった。彼等がその場を去って二分後、天井裏から「ゲ スタ・パック・タイプ」が飛び降りてきた。 「高尾山…?」 由鷹の言っていた地名を復唱したゲスタ・パックは、シャワールームの壁を覗き込ん だ。 「何も書いていない…。一応、本部に連絡を入れておくか…。」 彼には由鷹の見えた文字を発見することが、なぜかできなかった。 …6 秘密結社「ブルズ・アイ」平内島本部、会議室。 「ゲスタ・パックNO9からの報告です。サンダーと連れの少女は高尾山へ向かった   そうです。」 連絡員からの報告を無言で了解したファイブは、指先による合図で連絡員を退室させ た。 「さて…。トリプルAに追撃指示を出しましょうか?」 時代がファイブに答えた。 「うん…。ウオーターの様子はどうなんだ?」 運用室長が立席し、報告した。 「はい、東京支部医療班からの報告によりますと、全治にはおそらく十日はかかると   のことです。」 「ラスト・トライアングル無しで、ファイヤーとウインドの二人でサンダーに勝てる   と思うか? ファイブ君。」 「おそらく…。相討ちとなるでしょう…。しかし、彼等以下の戦力をぶつけても、お   そらくサンダーを抹殺することはできますまい。」 「しかしな…。ファイブ君。サンダーの為にトリプルAを失うのは痛い…。」 「ですな…。しかしサンダーがもしプロト・サンダーのもとで能力を開化させてしま   った場合、最悪の事態になりかねません。」 議論が煮詰まりかけたとき、会議室の扉が無理矢理こじ開けられた。ファイブが殺気 をはらんだ目で進入者を見つめる。 「サンダー抹殺に手こずっている様だな。」 ファイブが立ち上がった。 「東峰夏彦か…。」 進入者は「ブルズ・アイ」開発スタッフの白衣を着た、東峰夏彦であった。 「トリプルAにオーバーワークを強いることは無いだろう。」 自信ありげな夏彦に、時代が尋ねる。 「夏彦君、何か策があるというのかね?」 「俺がファイブの技術に自分の知識をプラスして、自らの体に転換手術を施したこと   は聞いているだろう。」  夏彦の発言に時代が答える。 「ああ、その手術が成功したことも聞いている。しかし君はBランク適性だったはず   だ。サンダーはAランク、いくら君が、高いレベルでの手術を自らに施したとして   も、このランクの差はいかんともしがたい。」 「そんなことは無い! 確かに俺はBランクだが、サンダーに勝つ為の特別装備が装   着されている! 勝算あってのことだ!」 殺気だつ夏彦に、ファイブが突き放した様に言った。 「私は装備の事までは知らん、この場で見せてもらおうか? 東峰夏彦…。いやアー   ス君。」 「いいだろう…。」 夏彦は身構えるとバトルフォームへ転換した。 …7 自らの力を幹部連に示し、サンダー抹殺作戦を委託された夏彦、転換名「アース」 は、ファイブに呼び出され、彼の部屋にまでやって来た。ファイブはブランデーグラス を夏彦に差し出すと、空のグラスに並々と琥珀色の液体をそそいだ。 「そんなにサンダー、いや、乱由鷹を殺したいのか?」 「当然だ。」 「おかしいな…。君には脳改造が施されていないはずだ。乱由鷹は君の親友だったん   だろう?」 「親友…? 違うな、奴は俺を裏切った。奴は俺を捨て、この基地を脱走した。超人   的能力を身に付けてな。」 「学生時代から、乱由鷹は君の能力を常に一歩リードしていたと聞く。転換特性まで  1ランク違うとは…。皮肉なものだな。」 「違う! 以前は奴に劣っていたかもしれないが、今は俺の方が上回った! 生化学   の知識と実戦力…。そして転換後の戦闘力もな!」 「だと…。いいがな。どうだねアース君、コンバット・マンを十名ほどつけるが…。   その指揮はドーベルにでも任すか?」 「ふざけるな! 由鷹ごとき、俺一人で充分だ!」 「だが、今の彼にはハルメッツという政府のサイボーグとプロト・サンダーが味方に   ついている可能性もある。三対一ではいくら君でも死にに行くようなものだ。」 「現行政府のガラクタ人形と、出来そこないのAランクが一体どの程度の戦力になる   って言うんだ! ファイブ! あんたは慎重過ぎるんだよ!」 夏彦はファイブにそれほどの威圧感は感じていなかった。確かに生化学の知識では、 彼の想像を絶する部分があるが、戦闘者としての能力は圧倒的に自信がある。 「ファイブさんは転換者ではないが、我々が及びもつかない超能力を身に付けていら   っしゃる…。」 とは、Bランク「ブランド・ポップ」が一週間前、夏彦に娯楽室で話した台詞であ る。しかし今の夏彦は気分が高揚している。彼はブランデーを一気に飲み干した。 「?」 夏彦の前からファイブが突然姿を消した。そして突風と共に彼の背後にファイブが現 れた。 「な…。なに…。動きが見えなかった…。」 「幹部の忠告は聞くものだ、アース君。自己過信で命を落した転換者を私は何人も知   っている。」 夏彦はファイブの並々ならぬ殺気を感じた。膝がガクガクと小刻みに揺れる。 「あ、ああ…。わ、わかった…。だが、工作員の指示は俺が取る。」  「そうか…。ならば第4班を連れて行け。」  夏彦はファイブにグラスを手渡すと、幹部室を退室した。 『ば、ばかな…。さっきのファイブの動き…。見えなかっただと…。高速移動なんか   じゃねぇ…。姿が一瞬消えたんだ…。そして八方に吹く突風と共に、奴は姿を現し   た…。風が八方に吹いた以上、高速移動ではない…。』  廊下を一人歩きながら、夏彦は考えた。 『ファイブ…。あいつは人間じゃない…。』 と。 …8 由鷹とめぐるは高尾山に到着した。由鷹は早速共鳴反応を感じた。 「いる…。それも事務所で感じた気配にとても近い…。そう俺に近い気配…。プロト   ・サンダーっていう名前に惑わされているのかもな…。」 「山篭りでもしてるのかな? プロト・サンダーって?」 「さぁな…。しかし逃げ回っているんだろうね…。そうか!」  由鷹は何かに気ずいた様である、めぐるもハッとして由鷹の方を向く。 「だから財布には五百円しか入っていなかったんだ! わざとすられたんだ!」 「名刺を見て判断する様にね…。でも、出来すぎた話しだな、どうも。」 「確かに…。私がスリで空き巣だなんて知ってるわけ無いもの。」 「ははは、どうにも楽観的になってる見たいだな、俺達。」 「うん…。でもロクな事無かったし。いいんじゃない?」 「ん…。」 由鷹とめぐるは、共鳴反応のある方角へ向けて歩いて行った。駅前商店街から高尾山 へ入り、登山となっていく。 「…。」  麓では元気だっためぐるも、一時間程登山すると無口になっていく。しかし共鳴反応 が強くなっていく為、由鷹はめぐるに気を使わず登山のペースを上げて行った。 「ここか…。」  登山ルートから、遥かに離れた急斜面の先に小屋が建っている。由鷹はめぐるを抱え 上げた。 「え、ええ、な、何?」 めぐるはあわてて由鷹の方を見上げた。 「しっかりつかまってて。」  由鷹は斜面をジャンプして小屋の前に着地した。 「う、うわ…。」  めぐるは驚愕した。由鷹のジャンプ力は常人のそれを遥かに越えている。由鷹はめぐ るを下ろすと小屋に向かって叫んだ。 「プロト・サンダー! 乱由鷹がやってきたぞ! 出てきてくれ!」 しばらくして、小屋から転換前のプロト・サンダーが出てきた。 「よう…。やっぱり来たな。入りな。」 由鷹とめぐるはプロト・サンダーの小屋に入った。 「シャワールームの伝言を見たんだな?」 「ええ、ただ、あれは転換者にしか見えない素材で書いてあった様ですね。」 「ああ、それも電気筋肉の発散する成分によって書いた。つまりサンダー眼を持って   いなければあの書置きを見ることはできない。」 「それは…。すごい…。」 「早速だが…。俺に何の用だ?」 「力を貸して欲しい…。東峰夏彦をブルズ・アイから助け出したいんです。そのかわ   りにプロト・サンダー。」 「竜でいい。」 「ああ、竜さん。貴方の目的に、俺は力を貸します。」 「なるほど…。いいだろう…。」 「竜、貴方の目的はなんですか? ブルズ・アイの壊滅ですか?」 「…。まぁ、そんなところだ。」 「それと…。竜さん。俺のいきさつは知っているんですか?」 「大体のことはな。探偵時代のネットワークが今でも生きている。Aランクの転換者   が脱走したなんてビッグニュースは嫌でも知ってしまうよ。」 「なら…。逆にあなたの素性を教えてもらえませんか?」 「…。ふん…。」 竜は考えあぐねている様子である。 「これから一緒にブルズ・アイと闘うんです。知っていないと俺も不安です。」 「…。いいだろう。」 …9  由鷹とめぐるは竜からその素性、「ブルズ・アイ」からどのようにして脱走したか などの話を聞かされた。 「…。」 由鷹はコーヒーカップをテーブルに置いた。 「トリプルAを始め、ブルズ・アイの転換者と闘っていくには、今のお前の力ではあ ぶなすぎる…。」 「しかし…。今の俺は、この能力が限界だと思っていますが…。」 「…。もし君がサンダーとして転換手術をされているのであれば、まだまだパワーア   ップが可能なはずだ。」 「パワーアップ?」 「ああ、それにこの間の闘いを見て感じたのだが…。まだ君は、自分の意志でフォー   ムを転換することが出来ない様だな。」 「敵は…。出来る様ですね。俺は生命の危険が無い限り、サンダーになる事はできな   い。」 「…。ついて来い。」 竜は外へ出て行った。由鷹とめぐるもそれを追いかける。三人は小屋の裏庭へ出た。 「下がってろ。」  竜に指示された由鷹とめぐるは言われるがまま、後ずさりした。竜はおもむろに服を 脱ぎ出した。その体のあちこちには傷がついている。 「見ていろ由鷹君。」 竜の右手を天空へ向けるとうなり声を上げて叫んだ。 「閃光!」 強烈な光りと共に煙が大量に発生する。その煙の向こうからプロト・サンダーが姿を 現す。 「これが俺達サンダーがバトルフォームになる…。閃光だ。これなら落雷も伴わない   …。」 由鷹は一歩前へ出た。 「…。どうやれば、出来るんです?」 「俺も閃光を自由に出来る様になったのは、ここ最近のことだ。これからじっくりと   コーチしてやろう。」 …10 「閃光!」  由鷹はサンダーへと転換した。しかし転換後の姿は今までの物とは著しく異なってお り、よりパワフルなスタイルとなっている。竜が頷きながらサンダーに近ずいた。 「大したものだ。たった一週間で閃光を修得するとは…。」 「指導のおかげです。竜さん。」 「…。」 めぐるが由鷹に歩み寄ってきた。 「ねぇ由鷹さん。自分の意志で変身できると、どうして姿まで変わっちゃうの?」  めぐるの質問に、竜が答えた。 「これはな、サンダーにとっての完全形態だ。今までの由鷹君は防衛本能による最低   限のバトルフォームしかとれなかった。しかし自分の意志で転換できる以上、最大   限のバトルフォームに転換することができる。」 「ふーん…。でもどれくらい強くなったんだろ?」 「さぁね…。ここにはパワーの計測機もないし…。ん?」 由鷹は森の奥から誰かがやって来るのに気ずいた。 「サンダー…。由鷹くんなの?」 「是玖斗さん…。」 めぐるがサンダーの前に飛び出す。 「なにしに来たのよ! …さては由鷹さんをつかまえに来たのね! でも無駄だよ!   由鷹さん、すっごくパワーアップしたし、今はもう一人サンダーがいるんだから   !」 「そう…。でもね、別に私は由鷹くんをつかまえに来た訳じゃないのよ。」 由鷹は転換をとき、服を着た。 「ここじゃなんですから…。中で話しを聞きましょう。いいですか? 竜さん?」 「私は構わないが、この人は誰だ? 由鷹君の知合いか?」 「あっと…。申し遅れました。私は是玖斗、是玖斗陽子です。内閣人事院で人造生体   調査班の班長をやっています。名利竜さん。」 「俺のことも調査済みってことか…。」 竜、由鷹、陽子、そしてめぐるは小屋へ戻った。 「人生調は解散になったわ…。実戦構成員が私と神白君だけじゃ、お話にならないし   …。」 「じゃ、今は是玖斗さんは…。」 「事実上休職中ね…。」 「それにしても、よくここがわかりましたね。」 「ごめんね…。あのガード下のとき、発信液を付けといたの。」 「そうだったんですか…。全然気が付かなかった。でも、これからどうするんですか   ?」 「そうね…。私も個人的に、ブルズ・アイには恨みがあるの…。」  竜が尋ねた。 「それで、乱由鷹に接触を求めてきたという訳か?」 「そ、そうです…。」  由鷹が答えた。 「あなたの個人的判断ということであれば…。いいですよ、一緒に闘うのは。」  めぐるが割って入ってきた。 「だめだよ由鷹さん! こいつらに捕まったこと忘れちゃ! うまいこと言って、ま   た由鷹さんにひどいことするに決まってる!」 「めぐる…。」 「そうね…。私が入院していたとはいっても…。この子から見たら私も警察 も一緒   ですものね。」 「そうだよ! 偉い人達なんてロクでもないんだ! いつもあたしとかをゴキブリみ   たいに追い払って! 疑ってばかりいて!」 めぐるは泣き出してしまった。 …11  夜、由鷹は胸騒ぎがして小屋のベランダに出た。そのベランダに陽子がやってきた。 「どーも…。」 「どうしたの? 由鷹くん。」 「何か…。胸騒ぎがしたんで…。」  「そうなんだ。」  陽子は由鷹から視線を夜空に移した。  「是玖斗さん、どうして貴女はブルズ・アイに恨みを? 自分の仲間が殺されたから   ですか?」 「ん…。それもあるけど…。前にね…。まだ人生調ができたばっかりの 頃だったん   だけど…。始めてブルズ・アイの人造生体と闘ったの…。その時にね…。私、瀕死   の重傷を負ったのよ…。」 「そうですか…。」 「あのままだったら、多分死んでたんでしょうね…。でも国は私が死ぬことを許さな   かった…。それで技術の実験も兼ねて私の体を機械に取り替えたの…。」 「…ハルメッツは、単なる装甲服じゃなかったんですか…。」 「新旋二型は普通の人間じゃ、操りきれないわ…。私はサイボーグ…。もう生身の体   には戻れないの…。」 「す、すみません…。嫌な話させちゃって…。」 「仕方ないわ…。できればしたくはなかったけど…。私、由鷹くんに信頼されたいし   …。ね、由鷹くん。」 「なんですか…?」 「あなた…。東峰夏彦君に対してのこだわりって…。やっぱりまだあるの…?」 「ええ…。あります…。俺はあいつを置き去りにしてしまった…。何とかして助け出   したい。」 「親友…。だったかしら?」 「と、いうか…。夏彦とは大学からのつき合いですけど、昔からの知合いだったよう   な気がするんです…。」 「ふぅん…。」 「是玖斗さんには? 友達とかは?」 「いるわよ、人事院のときの友達と、今でもつき合いがあるわ。」 「はぁ…。」 「でも…。男の人とは…。上司か部下とのつき合いしか無いわね…。」 「はぁ…?」 「こんな体じゃね…。」 「…。」 「…どうしたの?」 「誰かが…。近ずいて来ます。」 ベランダに竜がやってきた。 「気が付いたか? 由鷹君。」 「ええ、転換者の気配です。十人…?」 「十一人だな…。」  由鷹と竜と陽子は小屋の外へ出た。陽子は生体探知機を覗きこんでいる。 「かこまれたわね…。あ、一人だけ接近してくる…。」 「…なに!」  由鷹は自分の目を疑った。接近してきたのは、由鷹の親友東峰夏彦であったからだ。 「な、夏彦!」 「…。」  夏彦は黙っていてる。外の騒ぎに気が付いためぐるが小屋から出てくる。 「夏彦って…。由鷹さんの友達の?」  竜は夏彦が着用している衣類が「ブルズ・アイ」の戦闘服である点に気が付いた。 「ブルズ・アイか…。」  夏彦はニヤリと微笑んだ。 「よぉ由鷹…。元気だったかい?」 「なっ!」  竜は殺気立ち、由鷹をさがらせた。 「由鷹君! さがれ! こいつは俺達と同じだ!」  陽子は生体探知機が異常なまでに反応していることに恐怖した。 「この反応って…。彼?」  由鷹は夏彦が転換者となった事実を否定したかった。 「う、うそだろ…。夏彦。」 「ふふん…。随分と仲間が多いようだな…」  夏彦は陽子の方を見ながら、尚も言葉を続けた。 「美人の彼女まで一緒とはね…。Aランクともなると違うもんだ…。俺なんてBラン   ク止まりだっていうのにな…。」 「やめろ夏彦! やめてくれ!」  陽子は夏彦の顔をよく確かめた。 「この人が…。東峰夏彦…。由鷹君の親友…。だった人…。」 「貴様はひどい奴だよな…。由鷹。親友を見捨てて一人で脱走しちまうなんて…。」 「ちがう! 俺はあのとき記憶を失っていたんだ! でなければお前と一緒に脱走し   ていた!」 「…まぁいい。ブルズ・アイは俺に良くしてくれているからな…。どうだ由鷹よ、ブ   ルズ・アイに戻らないか? あそこで転換技術を研究すれば、俺とお前の夢は実現   する。」 「…ばかな、テロなんかには協力はできない。」 「だろうな、お前は現実主義者だったものな…。なら、俺はお前と闘うしかないとい   うことだ…。」 「闘えるかよ…。お前と闘えるわけないだろう…。」 「なら死ね! 俺に殺されろ由鷹!」 陽子が割って入る。 「東峰夏彦。あなたに勝ち目はないわ! 三対一のうえ、由鷹君は今までと比べ物に   ならない程パワーアップしているのよ!」 「クックックッ! 由鷹、貴様がいくらパワーアップしようと、俺には勝てん!」  夏彦は身構えた。 「現実を知れ! 由鷹! これが俺の真の姿だ!」  竜と陽子は後ろずさった。 「地覆!」  夏彦の足元の地面が割れ、砂煙が舞い上がった。 「閃光!」  竜はプロト・サンダーに転換した。プロト・サンダーはめぐるを抱き抱え、後ろに飛 んだ。煙の中から異形の怪物が出現した。Bランク「アース」である。 「…。どうだ由鷹…」 「く、くそったれ…。」 陽子は新旋二型のトランクケースのロックを解除しながら、アースを観察した。 「ゆ、由鷹くん…。ひがし…。夏彦くん? 随分と醜い姿ね。余程無理な生体改造を   したのね。」 「俺は夏彦などではない…。人類の味方、サンダーの天敵…。サンダー・キラー!」  由鷹は、心底夏彦を哀れに思った。 「どこまでも…。俺の後を追うんだな…。お前は…。」 「貴様にそんなこと言わせるかよ!」  アース…。サンダー・キラーはそう叫ぶと由鷹に突進していった。由鷹はサンダー・ キラーの突進をジャンプで回避すると空中で。 「閃光!」 バトルフォームに転換した。  ハルメッツとプロトサンダーも援護に入ろうとしたのだが、草むらから出現した十人 のコンバット・マンの前に行く手をさえぎられてしまった。 「夏彦…。お前、どうしてもやるっていうのか…?」 「当り前だ! これは俺にとって最大のチャンスなんだ由鷹! お前を越えることが   できるな!」  サンダーは、その眼光に一瞬悲哀を込めると、両腕を前に突き出した。 「せめて、一撃で…。苦しまずに殺してやる…。」  サンダーの体中から無数のボルトが突き出された。ボルトからは相当量の放電をして おり、その放電が両の手の平に収束される。 「かかったな…。由鷹。」  サンダー・キラーは両手からパイルを突きだし、四つんばいになった。サンダーは、 そんなサンダー・キラーの挙動には目もくれず、最大限の電気を放射した。 「サンダー・ノヴァァァァァァァァァァァァ!」  その電気は強力な熱と光を伴って、サンダー・キラーに命中した。コンバットマンと 闘っていたプロト・サンダーが思わず振り返る。 「あの坊主…。なんて放電量だ!」  しかし、命中したはずのサンダーノヴァも、サンダー・キラーには全くと言っていい ほどダメージを与えられなかった。微量の放電がサンダー・キラーのパイルから発生す る。 「な、なんだと…。」 サンダーは驚愕した。実戦では使っていなかった技とはいえ、竜直伝のサンダー・ノ ヴァを受けて、いくら何でも無傷でいられるはずがない。 「俺の転換名、アースには二つの意味がある。一つは大地、すなわち母なる地球を象   徴する意味。そしてもう一つの意味は…。」  サンダーはサンダー・キラーが言いたい言葉の意味を理解した。 「そのアース…。か…。」 「そうだ由鷹! つまりお前の電気技は俺には一切通用せん! そのことにより俺は    お前にとっての天敵、すなわちサンダー・キラーとなったのだ。」 プロト・サンダーが二人目のコンバットマンを血祭りにあげた後、つぶやいた。 「ブルズ・アイめ…。考えたな…。」 「違うなできそこない! このアイデアは俺が独自に考案し、自分の技術で実用化さ   せた物だ! 決してファイブだけの力ではない!」 「だったら…。」 サンダーは攻撃体勢をとった。 「肉弾戦で倒すのみ…。」 しかし、サンダーの殺気を感じたサンダー・キラーは再び四つんばいになった。 「なにをする気だ!」 サンダーはサンダー・キラーめがけ走っていった。 「ダンシング・アァァァァァス!」 サンダー・キラーはそう叫ぶと、体全体を震動させた。すると、地震がおこりサンダ ーは思わず地面に倒れこんだ。 「俺のパイルは地震を発生させる。お前の動きは封じた! 由鷹ァ!」 サンダー・キラーは両手のパイルを突き出すと、低くジャンプしてサンダーに突撃し た。左のパイルがサンダーの右胸をつらぬく。 「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」  サンダー・キラーはパイルを引き抜いた。 「由鷹くん!」  高速移動システム「ムービング・S」で地震を逃れたハルメッツは、上空からWEE D砲を連射した。だが、その全てがサンダ・キラーのパイルディフェンスによって防が れた。サンダーは両膝を地面につけ、左手で傷をおさえた。 「哀れだな! 由鷹! お前は俺には勝てん!」 サンダーは両肩を小刻みに震わせると、なぜか笑い出した。 「くっくっくっ…。どうした夏彦、お前の攻撃はそんなものか?」 「何?」 「ほら…。チャンスなんだろ? とどめを刺せよ、お前に殺されても文句は言えん   …。」 「…今更! 情に訴えるなど! 死にやがれ!」 サンダー・キラーは、再びパイルをサンダー目がけて突き出した。されと同時にサン ダーも左腕でガードした。恨みのパイルがサンダーの左腕を貫通する。 「かかったな! 夏彦!」 「な…。し、しまった!」 サンダー・キラーはパイルを必死で抜きにかかったが、びくとも動かない。 「電磁石の応用さ、お前のパイルは鋼でできている様だからな! さて…。」 サンダーは身体中から電気を発生させた。 「最大放電!」 サンダーは、パイルにより接続したサンダー・キラーめがけ電撃を流し込んだ。 「いくらアースとはいっても、これだけの電圧では体が持つまい!」 「し、しかし! この発電量では由鷹! お前も!」 「一緒に…。死のう…。」 「ふざけてろ由鷹! 俺はお前と心中する気はない!」 サンダーとサンダー・キラー。二人の体は発光を最大限にまで高め、その最高点で光 が四散した。数分後…。 「…。」 光の爆発点、その数メートル先に二つの影が動いた。 「由鷹…。くん。」 ハルメッツが生体探知機を作動させた。 「生きている…。由鷹君も、東峰夏彦も生きているわ!」  プロト・サンダーも共鳴反応を感じた。 「ふん…。」  爆発点の中央は縦数メートルのくぼみを形成しており、その中から裸の由鷹が姿を現 した。 「はぁはぁはぁはぁ…。」  由鷹は辺りを見渡した。すると、爆発点の先に上半身裸の夏彦が倒れているのが視界 に入った。 「な…。夏彦。」  プロト・サンダーとハルメッツも夏彦を発見した。森の奥からめぐるがやって来る。 「ゆ、由鷹さん!」  かけ出そうとするめぐるをプロト・サンダーが制した。めぐるはドキッとして後ろに 下がった。プロト・サンダーはサンダーに比べると不完全な転換手術が施されているた め、その姿は醜い。 「行くなめぐる。」 「で、でも…。」 「あれは二人で決着をつける問題だ。」 「…。」 めぐるは黙ってしまった。由鷹は決心すると、倒れている夏彦に歩み寄って行った。 『捕まえて説得するか…。それともここで殺すか…。』  由鷹は悩んでいた。その時である、由鷹と夏彦の間を引き裂く様に、一条の衝撃波が 着弾した。そして上空から二つの影が接近し、着地した。 「ふふん…。」  着地して来たのは二人の少年だった。しかし服装はブルズ・アイ構成員のものと同じ である。 「お前がサンダーか?」  左側に立つ、赤い髪の少年がそう尋ねた。 「ブルズ・アイか!」  由鷹は殺気立った。 「おおっと、今日は殺り合いに来たんじゃない。なぁ兄貴。」  赤毛の少年に「兄貴」と言われた青い髪の少年は微笑むとうなずいた。 「そう、私達はアース救出に来ただけです。」  そう言うと、二人の少年は夏彦を抱え上げた。 「まて!」  由鷹は二人に飛びかかろうとした。だが由鷹が行動にでるより早く、赤毛の少年の右 手より衝撃波が発射された。両腕をクロスさせながら受け止める由鷹だが、気がついた ときには二人の少年と、気絶した夏彦は数十メートル離れた場所に着地していた。 「ちっくしょう!」  由鷹はサンダーに閃光しようと身構えた。しかしその時、 「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉ!」  由鷹は大量の吐血をすると、苦しみ悶え、地面に倒れ込んでしまった。 「由鷹さん!」 「ま、まさか…。」 プロト・サンダーが一つの事実に気ずいた。 「禁断…。症状か…。」  薄れゆく意識の中で、由鷹は夏彦と過ごした研究室での日々が回想された。 「夏彦…。」  パワーアップしたはずである。闘いの仲間が二人も増えたはずである。しかしサンダ ー、乱由鷹の闘いは親友東峰夏彦の登場により、益々苛烈なものへとなっていった。           第四話「友は悪魔となって…。天敵 サンダーキラー!」おわり