…イントロダクション  野望は悪ではない。なぜなら歴史において証明しているように、野望こそ人類の繁栄 を促進し、かつ繁栄は苦難と崩壊の軽減を保証するものだからだ。私は苦難と崩壊に幸 を見いだす自虐的ロマンチストをみとめない。  破滅は美ではない。なぜなら破滅は混乱と狂乱とを育てる苗床であるからだ。そして 混乱と狂乱が新たな発展を生み出した例は存在せず、またこれからも存在しえない。破 滅は後退でありまた、秩序なき社会は破滅へと進むのみである。  安定は正義の結果ではない。また周知の様に、この世に確固たる正義などは存在しな い。付け加えるなら、正義とは衰弱した勢力、国家にとっての麻薬にすぎない。安定は 無数の過程から生み出された結果にすぎない。我々は、この偶然産み落とされた私生児 の誘惑に惑わされてはならない。なぜならこの私生児は我々を堕落へと誘い、人類発展 の停滞ひいては破滅を導き出すものだからだ。安定より野望をこめた無限の発展を…。                       一九六五年 七月一八日 新宿にて                           時代乱九郎の手記より抜粋 一九六五年。日本全土を興奮と狂気で覆った「学生運動」。狂乱の祭も終焉を迎えつ つあったこの年八月、一人の男が反政府学生グループより脱走した。男の名は「時代乱 九郎」屈指の弁舌力と驚異的行動力で、瞬く間に組織の中心的存在となった彼が何故突 如として消息をたったか、その真相を誰一人として知る者はいなかった。  西郷健代議士行方不明事件遺留品を公開  八日未明、遊説先の福岡市で消息を絶った「宇宙自由党」党首、西郷健代議士の行方 について福岡県警では、現場に残された遺留品を報道関係者に公開した。公開された遺 留品はプロクマ社製の幼女マネキン人形(十三体)。これは犯行グループが現場に残し たと思われる物証で、腹部の傷からこれまでの連続誘拐事件と同一犯による犯行である ものとみて捜査が続行されている。                   毎日新聞一九八三年一月十四日朝刊より抜粋 一九八二年、この年一月から現在に至るまで、三ヵ月周期で発生する連続犯罪があっ た。いわゆる「誘拐」である。事件を誘拐と決定ずけるのは事件現場に必ず遺留される 怪しげな十三体の幼女マネキン人形。事件を同一犯の犯行と確証ずけるこの擬人には、 腹部に常に 「急所に命中 1993」 という文章が彫り込まれていた。誘拐された人物は一九九二年十一月現在で百九十八 名、その内訳は、 スポーツ選手(格闘技選手、体操選手、水泳選手、) 五十五名 学者(生化学、物理学、機械工学など)       三十八名 自衛官                      二十七名 エンジニア                    二十四名 ホステス                      十七名 モータースポーツ選手                十六名 タレント                       七名 暴力団組員                      七名 警察官                        六名 無所属政治家(おかま)                一名 というものであった。しかし犯行グループからは犯行声明はおろか、身代金の要求も なく、この秩序性のない連続誘拐事件に、当局は困惑の色を隠せず捜査も難航し、事件 は迷宮入りの様相を呈し始めた。三流ジャーナリズムはこぞってこの現代の「神隠し」 を取り上げた。なかには人間以外の生命体による犯行… などという説を挙げる評論家 までもが登場した。もっともこの時点では、発言する側も自分の意見に対し半信半疑で はあったが…。 西郷代議士謎の変死体で発見 二十五日未明。先月八日以来消息を絶ち、安否がきずかわれていた「宇宙自由党」党 首、西郷健代議士が東京湾沖で水死体で発見された。現在司法解剖のもと死因を究明中 だが、消息筋からの発表によると西郷代議士の死因は、腹部裂傷によるもので死後経過 時間は四日余りとのこと。                       毎日新聞二月二十六日朝刊より抜粋 第一話「閃光! 異形の超人サンダー!」 …1 男は改造後始めて眼を覚ます。ここは平内新島。地下二百メートルにある、秘密結社 「ブルズ・アイ」基地内。けっしてすがすがしい目覚めではなかったが、不思議とその 体からは男が今まで感じられなかった程の鋭気がみなぎっている。  いままで…。男はふと考えた。  「俺はなんでここにいるんだ?」 男は更に考えた。  「俺はだれだ?」  『サンダー』  誰ともつかぬ声が、男の心に直接呼びかける。  「あ、あれ…? 誰だ?」  『聴こえるか? Aランクサンダー』  「サンダー?」  脳裏に呼びかける声は消えた。  男は数瞬以上前の記憶を失っていた…。やがて強烈な頭痛と共に、男の全身に悪寒が 走った。  「体の…。調子が違う…。自分の体じゃないみたいだ。」 男のもとに、数人の医師が入室してきた。医師達は検査機で男の肉体を調べつくす。 「大したものだ細胞安定率が99.9パーセントにまで達している。」 「成功だな。」 「しかしこれからが大変だ。果して転換後にどこまでこの数値を維持できるか…?」 「まぁ計算上では低下率は0パーセントだが…。」 「そうだな、それに今回はサンプルケースの結果が非常に高かったからな。期待はで   きるぞ。」 「サンプルの話しはよせ!」 医師達は口ぐちにそう言った。男は不安感にかられ、思わずこう洩らした。 「なんなんだ、あんた達は…。俺は病気なのか?」 「いやいやサンダー、君は病気なんかじゃない。むしろ健康過ぎるくらいだよ」 「こら! 転換者とむやみに話すな、時代様におしかりをうけるぞ!」 そういうや早く、医師達は部屋を退出した。しばらくして中年の男が入室してきた。 「やあ、サンダーくん。御気分はどうかね? いいわけはないか…。」 「?」 「時代様…。俺達のボスがな、あんたに会いたいそうだ。私についてこい。」 「なぁ…。ここはどこなんだ? それにさっきから皆俺のことをサンダーって  呼ぶけど…。それが俺の名前なのか?」 「…。そうか…。副作用だな…。転換手術による一時的な記憶喪失…。くっくっ、こ   れは都合がいい。」 「いいかげんにしてくれ! 俺には何がなんだかさっぱりわからない! それにあん   た、何者だ?」 「ふん…。Aランクっていうのは、どうしてどいつもこいつも、こんなに扱い辛いん   だ…。ああ…。言い忘れてた、俺の名は陣八。よろしくなサンダー。」 …2  男…。サンダーは陣八に連れられ、基地中央の個室に連れていかれた。そこでサン ダーは「ブルズ・アイ」首長、時代乱九郎と大幹部ファイブに引き合わされた。  「やぁ、サンダー君。よかった…。私は時代乱九郎。手術は成功した様だな。私も嬉   しいよ。」 「…。」 「時代様…。この男、どうやら手術の副作用で記憶を失っている様です。」 「そうか…。まぁ記憶などというもの…。かえって失ってしまった方が、君にとって   も幸せだろう。これからの人生を考えればな。」 「手術って…。俺は怪我でもしたのか?」 「我がブルズ・アイによって君は選ばれたのだよ、数万人に一人のAランク適性者に   な。そこで君に転換手術を施したのだよ、そしてサンダー、君は産まれ変わった!   君に少しでも記憶が残っているのなら、この意味がわかるだろう?」 「転換手術…。細胞安定率…。生体改造! 遺伝子組みかえ?」 「ほう…。生化学者としての知識はそのままか…。」 「ばかな? 生体…。それも人間に対する遺伝子組みかえは、まだ理論の上でも不可   能なはずだ! わかった! ドッキリカメラだな! カメラはどこだ?」 「くだらん…。あまり私を失望させないでくれ、サンダーくん。まぁ信じたくない   気持ちはよくわかるが、そう…。全ては君の推測通りだ、君は確かに生体転換手術   を受け、常人の想像を絶する超人となった。」 「どこに理論的根拠がある! 不可能なものは不可能だ! 何が超人だ!」 「…。想像以上の石頭だな。」  陣八がうやうやしく言う。 「なにせ、もとが学者ですから。」 「…。カメラ! カメラはどこだ?」 同席していたファイブが始めて口を開いた。 「時代様、証拠を見せるのが一番でしょう。彼は信じられないのではないのですよ、   信じたくないのです。おそらく。」 「その声!」 「先ほど送った念波、届いていた様だな。」 「わかった、ファイブくん。おい、陣八。」 「はっ」 「すまんが適当なCランクを呼んできてくれないか?」 陣八は退出した。しばらくして、背の低い少年を連れ、彼は戻ってきた。陣八に連れ られてきた少年は口元に薄笑いを浮かべながら、ファイブに尋ねた。 「…? だれですか? この男は?」 「新しい同志だ。」 「へぇ…。かなり強そうだな…。俺と同じCランクか?」 「Aランクだ」 「へへぇー!」 時代が少年に命じる。 「ゲスタ・パック キジゾウ君。彼は転換手術の際、記憶を一部失ってしまってな。   手術のことを全く憶えていないそうなのだ。しかも我々の技術に対して深い疑いの   念を抱いている。どうかな? 彼に現実を知ってもらうためにも、この場で転換し   てもらえないかな?」 「ははぁ…。いいでしょう時代様。」 ゲスタ・パック キジゾウという少年は一同からやや離れるとその不愉快な薄笑いを 消し、床に蹲った。 「なにを…。するんだ?」 「ぐぉ…。グェゲェガボォ!」 奇妙なうめき声を発するゲスタ。するとの体が一周り、二周りと肥大化していった。 「ば…。ばかな…。あれだけの質量…。」 肥大化すると同時に、ゲスタの体は蜘蛛のような異形の化物へと変化していき、引き ちぎれた上衣が四散した。 「ひ、ひぃー!」 信じられない光景を前に、思わず悲鳴をあげるサンダー。その悲鳴を介せず、ゲスタ の形態は変化を終了した。 「あぁ…。転換はいつもキモチイイッ!」 転換を終了したゲスタの表情は、実に晴れ晴れしていた。対象的にサンダーの表情は 恐怖に彩られている。 「う…。うぁ…。」 「驚くのも無理はないですな。サンダー様、しかしこれが現実です。」 サンダーの発する気配により、彼を自分より上位者のAランクと認めたゲスタは、丁 寧な口調でそう言った。 「なぁ、サンダー君。すばらしいとは思わんかね。我々は異なる力により、生化学の  限界を突破したんだよ… この力を用いて、我々と共に蒙昧なる日本政府に対し、   正義の鉄槌を振り下ろそうではないか!」 ファィブも時代にならう。 「サンダー君。君に施した改造は、このゲスタの数倍すばらしいらしいぞ。」 ゲスタもならう。 「うらやましい…。」 「く、くるってる…。」 「サンダー君。今、君は混乱しているのだよ。時間がたてば我々の目的と活動の素晴   らしさにきっと気ずくだろう、そう秘密結社ブルズ・アイの素晴らしさにな!」 「ぶ、ブルズアイ?」 「そう! 現行政府にとってかわり、この日本によりよい発展をもたらす至上の新生   国家! それが我々ブルズ・アイだ! そして君はその中でもより選ばれたエリー   トなのだよ!」 「至上の発展…?」 「君の記憶はどうやら、個人レベルにおいてのみしか喪失されていないらしいな…。   つまりだ、私がくどくど言わずともわかるだろう。現行政府の腐敗ぶりは。」 「…。」 「このままでは我々の愛すべき国土は、やがて破滅と混乱の渦に巻き込まれるだろ   う。私にはそれがたえられんのだよ…。今、日本という国家は根本的外科手術を必   要としている。そして我々はその偉大なる手術を断行する医師なのだ!  ブルズ・アイによって日本は救われ、更なる進歩を遂げる! そのためには大いな   る力が必要だ! 細胞転換によるカスタム・クリーチャーはその力となるだろう!   サンダー君! 君もこの場で転換して見せてくれ!」 恍惚の表情の時代にファイブが忠告する。 「いけません、時代様。彼の転換… 閃光には強大な電気発生が伴います。ここでそ   れを行なうのは危険過ぎます。」 「う…。うむ…。私も興奮しすぎた様だ…。すまんな、サンダー君。君の混乱も介せ   ずまくしたててしまって…。中年の悪い癖だ。」 「あ…。あ、はい…。」 「さがっていい、今日はもう自室で休みなさい。疲れてしまっただろう。」 「…。理解したくはないですけど…。するより他になさそうですね…。」 「君の戦闘訓練は二日後より開始される。それまでに体を慣らしておくんだ。訓練は  厳しいぞ。」 ファイブが淡々と言った。 …3 サンダーは現実を知ってしまった。自室に戻る彼は、ベッドに体を投げ出した。 「…。さっきはあんな物見せられて混乱したけど…。政府転覆か…。要はテロリスト   じゃないか…。冗談じゃない! そんな真似できるか? それに俺が化物に改造さ   れただって?」 サンダーは、右手を使って左拳を強く握りしめた。 「全然痛くない…。力だって今のままだ。だとすると…。改造されたって話しは嘘か   …? でも転換後に力が変化するのかもしれないしな…。」  洗いたてのシーツのにおいをたっぷり吸い込むと、サンダーは一つの結論を導き出し た。 「逃げよう。逃げて警察に行こう! そしてこの組織を一斉検挙してもらうんだ!   たとえ化物どもがいようと自衛隊が出てくれば大丈夫だろう。いざとなれば米軍だ   って!」 最も一般的な結論に達するサンダーだった。彼はまず、部屋から廊下に出た。施設内 の警備は、サンダーが予想していたより遥かに手薄で拍子抜けする程だった。だが、警 備の薄さに比べ施設の構造は複雑であり、サンダーは細胞転換実験室に迷い込んだ。 「う、うううう!」 サンダーの眼の前では、転換者「カスタム・クリーチャー」達が戦闘訓練を行なって いた。化物達の異様な訓練風景に圧倒されるサンダー。そしてその訓練は対戦形式で行 なわれる過酷なものであり、敗者は即、薬物を投与され処分された。 「ふん! こいつも失敗だったか!」 「細胞転換レベルでの成功も、実戦となると話しが違う様だな。」 「弱いクリーチャーは実戦隊にはいらん。さっさとかたずけよう!」 「そうだ、そうだ!」 楽しそうに敗者を処分する科学者達。転換者といえども、戦闘能力次第で味方からも 粛正される! サンダーは自分の選択が正しかったことに改めて気ずいた。 「あら? あなた新入り?」 廊下に戻ったサンダーは、背後より声をかけられた。声の主は十代の少女。どうやら 少女は、サンダーの脱走行に気ずいていない様子だ。 「そ、そうだ。俺は新入りだ。」 「あ、あん…。サンダーさん? Aランクのサンダーさんね。私、ウインド。よろし   くね。」 「よ、よろしく…。き、君も転換者?」 「ええ、そうよ。ランクは…。ま、いいわそんなこと。ところで…。」 ウインドと名乗った少女は、まじまじとサンダーの顔をのぞき込んだ。 「あはは! やっぱり噂通りのいい男だ! あなた評判なのよ! この基地の女性陣  から!」 「な、なぁウインド。この基地って…。いやごめん。俺、どうにも記憶が少しなくな   ってるらしいんだ。で…。この基地って一体日本のどこにあるんだい?」 「…。平内新島よ。地下二百メートルの。」 サンダーは、その記憶の中から平内新島の情報を思い出した。 「なる…。平内新島政府開発中止の裏には、こいつらの活動があったのか?」 「どうしたの?」 「い、いやなんでもない! 俺、部屋に戻るよ!」 「あ、待って!」 「な、なに?」 「あなたは…。脱走なんて、しないわよね。」 「いるのか? 脱走者が。」 「ご、ごめん。何でもないわ。」 そう言うと、少女はサンダーの前から歩き去った。 「あんな可愛い子も、転換するときには…。だめだな…。連中の策かもしれない。早   めにここを出よう。」 …4  サンダーは迷宮の様な「ブルズ・アイ」基地を何とか脱出し、地上にでた。 「外はいい天気だ… さてと、どうするかな? 平内新島は離島だけど、こいつらだ   って本土に行く船くらいもってる…?」 サンダーは港に停泊している小型貨物船を発見した。その貨物船は荷物の積み替えを 済まし、今にも出向しようとしていた。 「あれに密航して脱出しよう。そして警察に行って見たままを話そう…。」 貨物船を見上げるサンダーの脳裏に時代、ファイブ、ゲスタ・パック、そしてウイン ドの姿がよぎった。 「何をためらっているんだ…。奴らが友好的なのって、つまりは俺を利用したいだけ   だろう…。まてよ…。俺の利用価値? 生化学の知識? 違うな…。だったらもっ   と違う話しになっていたはずだ…。」 考えつつもサンダーは貨物船に乗り込んだ。 「体が機敏に動く…。カンの冴えもいい…。神経が高ぶってるのか? それともまさ   か…?」  貨物船の最下層の食料貯蔵庫に隠れるサンダー。しかしそのとき全島に放送が響き渡 った。 「ブルズ・アイ構成員につぐ、脱走発生、脱走発生。脱走者はA…。サンダー。脱走   者はサンダー。保安員及び実戦隊はサンダー発見次第、直ちに本部へ連絡せよ。ま   た、状況に応じて捕獲、又は処分を実行してもよろしい。それではサンダーの身体   データを発進する。転換者は直ちに感応準備に入れ。尚、D−34港より出向のゆ   ーとぴあ号は予定通り出向せよ。繰り返す…。」 「連中め、ついに本性を出しやがった。しかし…。俺のランクをはっきり言わない辺   りに興味…。だめだだめだ、今は発見された時の事を考えよう。」 サンダーは辺りを捜し回り、一本の鉄パイプを発見した。 「きくのか… こんなもの…?」 船は出航した。一応安心するサンダーだったが、次の瞬間、彼は自分の背後に殺気を 込めた気配を感じた。 「?」 サンダーの背後に立っているのはゲスタ・パック キジゾウである。 姿は人間のままだ。 「あ…。」 「フン…。脱走とはね。しかし見事にひっかかったな。出向許可を放送で流した甲斐   があったってもんだぜ。」 この場に時代とファイブが不在のせいか、ゲスタの口調はサンダーに対して荒っぽく なっていた。 「ち、ちがう。放送は…。」 「ま、どうでもいいこった。それより聞きたいね、どうして脱走なんてしたんだ?」 「どうして? 当然だろ? あんた達のやろうとしていることはテロリズムだ! そ   んなこと成功するとは思えないだろ?」 「Aランクに転換させてもらったのにか? Aランクは転換者の中でも最高なんだよ   ! その力があれば大臣だって社長にだってなれるんだ! 貴様には恩を感じる心   もないのか?」 「な、なにを言ってるんだ? それに俺は化物に改造してくれって頼んだ憶えはない   っ!」 「化物だと? Aランクはな、コンバットマンの様な半端者とは違って、その姿も力   も神に等しいほど素晴らしい物なんだ! 貴様!」 「狂ってる! 貴様達皆狂ってる! 俺は何も知らない! 俺はいやだ!」  サンダーとゲスタの発している言葉は同じ日本語のはずであった。しかし互いの言 葉はその意味を決して交じらせることなく、会話は続いていった。それは長く続くはず もなく。ゲスタは遂に激昂した。 「貴様の様な奴とは話す価値すら感じん! もういい! 始末してやる!」 ゲスタはそう言うと「転換」した。 「や、やめろ…。し、死にたくない…!」 「うひょぐひょるるるる!」 ゲスタは生身のサンダーを自らの欲望のおもむくままにいたぶった。サンダーは体中 から血を吹き出し、船倉をのたうちまわった。 「い、痛い! し死ぬ!」 「これどぅえもAランク? 脆いねぇ!」 サンダーは自分の死をごく近い未来に見いだした。するとゲスタに対する外見的なお ぞましさからくる恐怖感は薄れ、より強い死の恐怖が彼を支配した。 その瞬間、彼の意識が失われると同時にサンダーの体に電流のような物が流れた。 「う、ウギャー!」 ゲスタは自分の体に高電圧の電流が流れ込んでくるのを感じた。サンダーに触れたた めである。そして天井からは落雷。 「こんなことが! こんなことぐぁ! 死の恐怖からくる防衛本能! 細胞転換を促   しその本性を剥き出しにするっ! やりすぎた! 楽しみ過ぎた! 俺は自分の快   楽に溺れすぎたぁー!」  ゲスタは自分の失策を嘆いた。しかし彼が嘆いている間にもサンダーの細胞転換は進 む。首の両側より突き出したボルトは落雷を受け止め、衣服は筋肉の膨張と天井からく る落雷により引き裂かれ、その筋肉も電気発生細胞「サンダー巣」へと黒ぐろと転換し ていった。体色は深い青に変わっていき、胴、手足からはボルトが噴出する。 「バリバリバリ!」 ゲスタは恐怖した。しかしその恐怖も一瞬のものだった。 「た、確かにAランク。しかしまだ戦闘訓練は受けていないはずぅ。勝てる! そし   てこいつの首をぶら下げ、Bランクへ上級転換させてもらおう!」 ゲスタはその長い両腕にコンバットナイフを持たせ、サンダーへ突進した。その動き は素早く的確であり、彼の二本のナイフは確かにサンダーの心臓に到達した。 船倉には先ほどの落雷のため床に穴があき海水が進入している。 「ば! ばかな!」 二本の鋭利なる凶器はサンダーの胸を貫いたはずだった。しかしサンダーは全く動じ ない。逆に彼は、体内から最大限の電流を放射し、海水を通じてゲスタを感電させた。 黒コゲになり、床に倒れるゲスタ。その姿は人間体に戻っていく。 「ま、負けた…。だめだ…。俺の力ではこいつには勝てん…。」 ゲスタは絶命した。船倉に立ち尽くすサンダーだが、ふと意識が戻った。 「く、黒コゲになっている… お、俺がやったのか?」 サンダーは自分の手を見つめた。しかし意識を失う前と、その両手の外観は大きく変 化してしまっている。 「な! なんだ! この手、この体は?」 腰まで浸水した海水に、サンダーは自分の姿を見いだした。 「こ、これが俺? こんな化物!」 「ゆうとぴあ」は落雷による浸水のため、沈没寸前である。そのブリッヂでは、船長 であり、Bランクの転換者「ドーベル・イワイ」が退船指示を出している。 「この落雷… サンダーか! まさかこの船にいたとは…。」 サンダーは認めたくなかった。異形の姿となり人殺しを実行した自分自身を。                  第一話「閃光! 異形の超人サンダー!」おわり